いつも時代の最先端の「新しいもの」や「おもしろいもの」をみつけ、みんなにその楽しさをわかりやすく伝えてくれる糸井重里さん。そんな糸井さんがiPodの楽しさに気づいたのは、ある体験がきっかけでした。それ以降、すっかりiPodの魅力に夢中になり、今では3種類のiPodを使いこなしているヘビーユーザに。さらには、世の中のみんなにもその楽しさを知ってもらうために、iPodの伝道師的活動を始めてしまうほど。なぜ、iPodは、そこまで糸井さんの心を捉えたのでしょうか?

iPodを使い始めたのはいつですか?

実は、iPodの発売と同時にもらったんです。でも、初めはiPodというものが何なのかよくわかってなくて、ずっと使わずに「ただ、あった」んですよ。カセットテープと同じように考えていたので、手間がかかるものだろうと勝手に思い込んでいたんですね。 だから、もうMDもCDもあるのに、なんで今さらそんなめんどくさいことをするんだろう、ぐらいに思ってたんです。僕、いつもそうなんですよ。新しい技術に関しては、冷蔵庫くらい簡単にならないと使わないんです。
ところがあるとき、知り合いの車で出かけることになって、そこでビートルズ全曲をシャッフルで聞かせられるという体験をしたんですね。そのシャッフル加減がすごくよくて、「これ、僕の車にもつけられる?」って聞いたら、「iPodがあればできる」っていうんですね。 もうその瞬間から、iPodの意味が変わっちゃったんですよ。後から聞いたら、実はその人は僕がiPodを持っているのに使っていないことを知っていて、遠まわしにプレゼンテーションしたらしいんですね。それで自分でもやってみたら、これが簡単にできたんですよ! その2、3日後には3個のiPodを買ってました。娘や友達にあげるために(笑)。


今は何をお使いですか?

iPodとiPod miniとiPod shuffleを持ってます。当初、iPod miniは別になくてもいいやって思ってたんですよ。でも、僕は音楽だけでなく落語もiPodに入れて聞いているので、両方がシャッフルされてしまうとちょっと困るんですね。そこで、iPod shuffleは音楽専用、iPod miniを落語専用に使ったらいいんじゃないかと考えたんです。そして、すべてが入ってるのがiPod。そんな使い分けはどうかなと、今模索中です。
家では、AirMac Expressでステレオに飛ばして聞いていますね。犬に留守番させるときには、ずっと音楽を流しっぱなしにしてるんですよ。そうすると犬もさびしくないじゃないですか(笑)。


落語のお話が出ましたが、iPodと落語というのはちょっと意外な組み合わせですね。

落語はよく聞きますね。CDもかなり持っています。寝る前に聞くことが多くて、iPodに入れてベッドに持ち込んで聞いています。今までだったら枕もとにいっぱいCDを持ち運んで、さらにそこからどれを聞こうかな…という2段階の手間が必要だったし、CDプレイヤーの揺れが気になったり、枕もとのCDが倒れてきたらいやだなという心配もあったんですが、それらがすべて解決しましたね。iPodに入っている落語は、もうご飯茶碗みたいなものです。ご飯茶碗は気に入っていようがいまいが、毎日使うじゃないですか。それとおなじですね。

音楽についてはいかがですか?

聞き方が圧倒的に変わりましたね。CDプレイヤーで聞いていたときは、まずCDを選ぶ時点で何を聞くかを決めている。だから、聞くという仕事は、選ぶときに始まっているんですよね。でも、iPodのおかげで、「今ざっとこんな感じのものが聴きたい」という、漠然とした決定だけで聞くことができるようになった。
大人になると、音楽CDも大人買いをするので、1曲1曲を大事にしなくなるんですよね。だから、ちょっとこれは…っていう曲が初めの方に入っているアルバムは、他の曲もまったく聞かなくなってしまうんです。そうすると、アルバムの7曲目に何が入ってるかなんてわからないままになっちゃう。でもiPodのおかげで、死んでいたその曲が生きてくるんです。つまり、等しくどの曲にも1票があたえられる、デモクラシーが起こったんですよ。「自分で持っているはずなのに知らない曲」の中に、いい曲が結構多いことに気づきましたね(笑)。


iPodがそれらの曲を復権させてくれたわけですね。

でも、実は、iTunesがすごいんですよね。あれを無料で配ったところから、すべてが始まったんですよ。考えてみたら、iPodは曲を持ち出すだけだから、iTunesがあれば、機能的には十分なんですよね。
そういえば、アメリカの大学のキャンパスで、ラジカセみたいにiBookを肩に乗せて、iTunesで音出しながら歩いてる人を見たっていう話を聞いたことありますよ。それでも聞けるんですよ。でかいiPodを抱えてるのと同じですよね。問題は閉めたらだめで、半開きにしとかないといけないところなんだけど(笑)。iTunesは無料でダウンロードできるのに、ちゃんとビジネスになっている。そこに、インターネット的なものを感じますね。僕がやっているサイトの「ほぼ日(ほぼ日刊イトイ新聞)」も同じなんですよね。もともと儲ける目的でやっているわけじゃないんだけど、結果的にビジネスにつながるという点で。


「ほぼ日」には、「iPodであそぼう。」コーナーもありますね。

iPodの楽しさは、知らせるとみんなに喜んでもらえる話だと思ったんですよ。自分がiPodを持っていながら使ってなかった時間が結構長かったんで、それはもったいなかったなあ、と思って。

読者からの投稿も多いと思いますが、iPodの新しい使い方などは発見しましたか?

新しい遊びを発見するっていうのは、実は本来の使い方に飽きてからなんですよ。でも、まだ僕らはiPodに飽きてないんです。まともに音楽を入れて、普通に聞いているだけで十分に楽しい段階なんです。ただ、オーソドックスに、まじめに助かる使い方はたくさん考えつきますよね。ラジオ体操とかフォークダンスとか、結婚披露パーティに使うとか。特にお年寄りなんかにもいいんじゃないかと思いますよ。入院のお見舞いにいくときに、落語を詰め込んで、iPodごとどうぞっていうの、いいじゃないですか。

「ほぼ日」では、今度iPodをテーマにしたTシャツコンテストを行うそうですね。

「T-1 WORLD CUP」といいます。デザイナーがデザインしたTシャツをサイトで売って、その購入数で競おうという企画です。その規定課題を「iPod」にしたのは、後から思い返して「ああ、あれは2005年だったよね」って時代性を感じられて、さらにみんなが喜んでくれるものがいいなと思った結果なんですね。さっき話した、無料とビジネスの境界線のあいまいさを、iPodを使うことで出したかったということもあります。
本当にいいものって何?って、デザインの職人さんは普段あまり問われたことがないんですよ。スポンサーの代わりに私がデザインしてあげましょう、っていう仕事のしかたをしているので、自分が作ったものを買ってくれるかどうかというわかりやすい勝負をする機会がない。今回は、普段の仕事とは別の筋肉を使うんじゃないかと思うんですよね。Tシャツみたいなシンプルなものだと、デザインの良さ・悪さが露骨に出る。選手であるデザイナーは命がけの、まさに「格闘場」です。着るほうも誇りを持って着てもらいたいですね。
(2005年7月20日(水)東京都内、糸井重里事務所にて)




Profile
糸井重里(いとい・しげさと)
コピーライター
「ほぼ日刊イトイ新聞」編集長

1948年群馬県生まれ。1979年東京糸井重里事務所設立、広告コピーを手がけながら、ゲーム製作、作詞、文筆(詩、小説、エッセイ)などの創作活動を行っている。1998年よりインターネットホームページ『ほぼ日刊イトイ新聞』を開設。読み物コンテンツを中心に、商品の企画販売、他社とのコラボレーションなど様々な活動を行う。2005年10月現在、1日のアクセス数100万件。




T-1 WORLD CUP
糸井重里氏主宰のWEBサイト「ほぼ日刊イトイ新聞」が開催するTシャツデザインコンテスト「T-1 WORLD CUP」。有名デザイナーやアーティスト9名が「Tシャツのナンバーワンの座をめぐって競い合う話題のコンテストを記念して、糸井氏とグラフィックデザイナーの佐藤卓氏によるトークイベントを行います。Tシャツから拡がるデザインの未来についての興味深い対談をお楽しみください。
10月16日 (日) 5:00 p.m.

Podcast
ほぼ日刊イトイ新聞podcastでは、「T-1 WORLD CUP」参加デザイナーと糸井重里による対談を配信しています。さらに、過去の配信分では、みうらじゅんさんがこれまで影響を受けてきた人やモノにとにかく恩返しをしまくるコンテンツ「じゅんの恩返し」Podcast版もお楽しみいただけます。

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