Special Report
坂本龍一 緊急記者会見イベント
デビューから今年でちょうど30年。坂本龍一さんの存在感と活躍は、近年ますますその輝きを増しているように見えます。ソロ、YMO、HASYMOと変幻自在な音楽活動を展開しながら、著作権、原子力発電、環境問題など社会の様々なテーマに対して積極的な活動を続けるその姿勢は、まさに “行動する音楽家” といえるでしょう。
アップルストア銀座で12月10日に行われたイベント「坂本龍一 緊急記者会見」では、YMOのニューアルバムと坂本さんのニューアルバム、ソロツアーについての発表が行われました。現在、新しいソロアルバムを制作中の坂本さんは、ニューヨークのスタジオからiChatを通じて、アップルストア銀座3Fのシアターのスクリーンに登場。2009年の活動に向けた今の心境を語ってくれました。
今回はそのイベントレポートと、特別インタビューを合わせてお届けします。
自分が聴きたい音を世界中から厳選して
つくったニューアルバム。
まず最初の話題は、2009年3月4日発売予定のソロアルバム『out of noise』からスタート。年末年始にかけてまさに制作の最終段階を迎えるとのことですが、ファンのみなさんにはどんな仕上がりになっているのかが気になるところです。
─5年ぶりということでみなさんの期待が相当高まっていると思いますが、ニューアルバムがどんなものになっているのか少し教えてください。
基本はピアノをベースにしたシンプルな音づくりになっていますが、そこに北極圏の氷の音や海中の音、犬ぞりの犬たちの鳴き声を入れたり、クリスチャン・フェネスやコーネリアス、高田漣といった友人たちに手伝ってもらった音を入れたりしています。最近は中世やルネッサンス、初期のバロック音楽などもよく聴いているのですが、そうした音楽を古い楽器で演奏しているユニークなイギリスのグループにも協力してもらいました。結果的には日本料理や華道のような、いわゆる素材を生かした作品になりましたね。
余計なことを考えずに、自分が聴きたい音だけを集めてつくったという意味で、30年近いキャリアの中でも非常にピュアな作品をつくることができたと思っています。『out of noise』というタイトルの意味は、あえて説明したくはないのですが、アルバムを聴きながら、その人なりの想像をいろいろと膨らませてほしいと思います。
─そして来年は待望のツアーも行われますね。『Ryuichi Sakamoto Playing the Piano 2009』全21公演のスケジュールが発表されました。
今まで2週間以上のツアーはやらないようにしていたんですけど(笑)、今回は僕にしては珍しく大きなツアーになりそうですね。演奏するのは、僕一人です。以前もやった方法なんですが、ピアノを2台並べて自分が事前に演奏したものを1台から流しながら、もう1台で生演奏するというスタイルになると思います。ニューアルバムからの曲も何曲か披露するつもりですよ。
─しかも、今回のツアーではライブ音源をiTunes Storeで最短24時間で配信するということなんですが。
ツアーの最後の方でお客さんが聴き飽きちゃって、来てくれなくなっちゃうと困るんですけどね(笑)。その意味では、毎日違うことを考えなきゃいけないですね。毎日違うセットリストにするといっても、そんなに弾ける曲がないんですが…。
─今回のツアーの環境への取り組みはいかがですか?
この何年間かいろんな努力を続けてきたんですが、自然エネルギー証書を購入してカーボンフリーのツアーを3年ほど前から行っています。日本人が1日に出すCO2が約6kgらしいんですが、今回のツアーチケットを買うとその1/6、つまり1kg分のCO2をオフセットできることになるんですね。お客さんも自然に環境保護に参加できる仕組みを考えてみました。
続いて、12月10日にiTunes StoreでリリースされたYMO名義のライブアルバム『LONDONYMO』『GIJONYMO』についての話題に。前者はMassvie Attackがキュレーターを務めたロンドン『MELTDOWN FESTIVAL』公演、後者はスペイン・ヒホンで行われた『Laboral Ciudad de la Cultura』公演を収録したものです。
─ヨーロッパでのライブを思い返してみて、どんなライブだったとお感じになっていますか?
やはり一番大きいのは、YMOとして28年ぶりのロンドン公演だったということですね。最初のワールドツアーをスタートさせたのがロンドンなので、とても想い出深い場所です。僕にとってはほとんど初の海外旅行に近かったですし。当時のロンドンはパンクからニューウェイブに移ろうとしていた時期で、世界中で一番輝いていた街だったんです。ロンドンに詳しかった高橋幸宏くんに連れられて、キングス・ロードに買い物に行ったりもしましたね。
新しいことに対する好奇心は
なくなりません。
またイベント終了後、特別にメールでのインタビューにも回答いただきました。ニューアルバムやツアーの話題だけでなく、音楽配信やアップル製品についての考え方など、非常に興味深い内容をお聞きすることができました。
─iTunes StoreでリリースされたYMOのライブアルバムには、YMO以外のソロの楽曲やSKETCH SHOW、HASYMOの楽曲も収録されています。これは「新生YMOのスタート」と言えるのでしょうか?今の坂本さんのYMOに対する想い、このライブアルバムに対する思い入れをお聞かせ下さい。
昔のYMOも『Riot in Lagos』や『千のナイフ』なども演奏していましたので、初めてではないです。しかし、以前に比べて少し比重が増えているかな。ぼくは、今のYMOの方が好きですね。余計なエゴの確執もないし、お2人は昔よりうまいし、ずっと楽しいです。それに変なこだわりもないので、以前に比べてより熱気のあるライブができるようになってきました。以前は「汗をかくのはテクノっぽくない」というイメージにとらわれていましたから(笑)。
─坂本さんの来年のソロツアーでは、全公演のライブ音源を録音し、24時間後にiTunes Storeにて配信するとのことですが、今回そうしたユニークな試みに挑戦される理由、また今回のツアーに対する意気込みをお聞かせ下さい。
1995年には、おそらく日本で初のインターネットを介してのライブ中継を行いましたし、1997年のツアー『f』の時には、やはりコンサート直後に抽選で当たった聴衆に、その夜の演奏のCD-Rをプレゼントするということもしていました。まあ、新しいことに挑戦するのが好きなんでしょうね。好奇心はなくなりません。ぼくたちがこういうリクエストをすることで、技術者もまた新たな挑戦をするきっかけになれば、うれしいです。
冗談っぽく言いましたが、この10年以上、ほんとうに2週間以上のツアーはしないという自分で作ったルールを守ってきたんです。しかし、今回はそれを破り、たぶん僕の初めてのツアー『Media Bahn』以来の長期ツアーになりますので、日本各地に行けるのがうれしいです。
ほぼ100年続いた音楽ビジネスの形が今、
ドラスティックに変わりつつある。
─iPodやiTunes Storeの登場は音楽リスナーにどのような影響を与えたと思われますか?また、今後アップル製品に期待することがあれば教えてください。
1995年にインターネットが一般に普及し始めた時、すぐにいずれ音楽はデータとして配信されるようになるはずだ。CDの需要は減る、と確信しましたので、関心をもつネット技術者などを集めて配信技術の研究会を始めたり、必然的に問題となる著作権問題を研究する会をたちあげました。それからいろいろありましたが、やっとアップルのiTunes Storeをもって、世界的にネット配信がビジネスとして確立しました。ぼくの予想よりずっと時間がかかりましたが。ほぼ100年続いた音楽ビジネスの形が今ドラスティックに変わりつつあります。今後、それがどのように着地していくのか、誰にも予測できない状態がしばらくは続くでしょう。
iPodに関しては、欧米では「iPodカルチャー」とでも呼ぶべき文化が発達しましたが、日本ではそれに代わって「携帯カルチャー」というものが発達しました。以前から、この2つのカルチャーがいずれは交差し、ハイブリッドなものになるだろうと言っていましたが、現在そうなりつつあります。今後は、日本的な「携帯カルチャー」の特殊性は薄れていき、よりグローバルなものになっていくでしょう。
アップル製品はごく初期から利用させてもらっています。もう四半世紀近くなるんですね! この20世紀末から21世紀にかけての「革命」はもう少し離れて概観しないと、その影響の大きさは真には理解できないでしょう。もう少し時間がかかります。今後?常にぼくたちを刺激してくれると信じています。Macはぼくの思考にも、仕事にも、生活においても、なくてはならないツールです。
─音楽だけでなく、長年にわたって様々な社会的活動に取り組まれている坂本さんのバイタリティの秘密は何なのか、気になっているファンの方も多いと思います。最後に、この激動の時代を生き抜くためのヒントを一つ教えていただけたら嬉しいです。
何かの番組で、冒険家は気が小さいと言っていたのを聞いて、とても得心しました。ぼくもとても気が小さいのです。おまけに意志も薄弱で、よく「木の葉の意志」と冗談を言います。吹けばヒラヒラと飛んでいくような程度の意志だからです。これでは答えになっていませんが、何かのヒントになりますか?(笑)
─どうもありがとうございました。
(2008.12.10 Apple Store, Ginzaにて)





