松任谷由実、通算34作目となるニュー・アルバム「A GIRL IN SUMMER」。2006年5月10日(水)から、このアルバム中の6曲がiTunes Music Storeで先行配信され、すでにアルバムチャートのトップを獲得しています。この「A GIRL IN SUMMER iTMS edition」には、特典として歌詞・写真・映像がすべて楽しめる「インタラクティブ・デジタルブックレット」が付属、これは日本人アーティスト初の試みです。時代の「すこし先」を軽やかに駆け抜ける松任谷さんに、デジタルツールの楽しみ方、そしてニューアルバムについてお話をうかがいました。
リスニングスタイルに変化をもたらした「ディクショナリー」としてのiPod
──これまでApple Store, Ginzaに足を運ばれたことはありますか?
今回で3回目です。Apple Storeってアメリカっぽいというか、西海岸っぽい感じがしますよね。この家具の匂いとかね(笑)。お店に入ってデスクにずっとMacが並んでるのを見ると、「明るい孤独」な感じがします。
──「明るい孤独」ですか?
なんかね、不思議な感じがするんですよ。子供のときに「今日はお爺ちゃんがお相撲観に行ってるからTVに映るかもしれない」と思って、ずっとお相撲の中継をTVで見てたことがあったんです。そうしたら向こう正面にホントに祖父が映ってて、それが不思議でTVの後ろ側に回ったりしたことを思い出してしまって。後ろに回っても当然祖父はいないんだけど、正面に回るとTVの中にいる、みたいな。
あとはポパイの漫画で、オリーブがブルータスにさらわれて、ティピー(*アメリカ先住民の携帯型住居)みたいなテントの中に連れられちゃうのね。で、ポパイがそのまわりをグルグル回っても何もないわけ。ところが中を覗くと宮殿がバーッと広がってたりするような。外は何の変哲もないティピーなのに(笑)。
──外見からは想像もできない空間が中に広がってる、という。
そう。外から見るとクリーンでドライな空間なんだけど、その向こうに広がってる世界があるんだって思うと、すごい不思議な感じがしますね。
──MacやiPodなどのアップル製品を日常生活の中で使われていますか?
作曲用にiMacを。テープレコーダー代わりになっちゃってほとんど使いこなせてないんですけど、テンポを決めるのと、主メロと、コードを録音するのに使ってます。リズムとかは専門家と暮らしているものですから(笑)、すぐに家内制手工業のように頼んでしまって。
あと、実は今日iPod nanoを1台購入したんです。松任谷(正隆さん)に買って来てって頼まれたドーナツ型のスピーカー(*JBL on station)と、旅行用の携帯型スピーカーと一緒に。iPod nanoはちなみにジョギング用です。そのためにリストバンドも一緒に買っちゃって。
──ジョギングやスポーツをしている時に、音楽は欠かせないものですか?
そうですね。今まで使ってたMP3プレーヤーが、ずっと画面が見づらかったんですよ。眼鏡持って走るわけにもいかないし、走る前に聞きたい曲をセットしてから出かけるような状況なんで、早くiPodに換えたいなって思ってたんです。
──操作に関してはどうですか?
操作もiPodのほうが、感覚的になじむんですよね。このクルクル回したりっていうのが。
──ご自宅ではiPodをどのように使われてるのでしょうか。
いまウチにはね、4台ぐらいiPod用のスピーカーがあるの。あちこちの部屋に置いておいて、好きなときに聴く。今、松任谷が自宅にあるCDを全部iPodに入れてるところなんです。自分でやったら大変な作業なんだけど、それは松任谷にお任せで(笑)。完成したら、ディクショナリーとして持ち歩きたいですね。
──身近に「デジタルツールはお任せ」という方がいると、心強いですよね。
そうですね、私は運転免許も持ってないし。このまま一生いけちゃうのかなって思ったりもしますけど(笑)。
──iPodのメイン機能のひとつ、「曲をシャッフルする」というリスニングスタイルについてはどのように感じていますか?
作る側の人間として、そういう風に聴いてもらえるのは単純に嬉しいですね。私の音楽は、そのときそのときで「この曲にはこのサウンドプロダクションしかない」ってところを追求してきてるから、手前味噌になっちゃうけど、古くないと思うんです。いつの時代のものを聞いても、そのときのエッジなものをやみくもに追いかけてたわけじゃないという自負があるので。大いにシャッフルして聴いてもらえればって思います。
常に最新のものを取り入れて「変化しているからこそ変わらない」
──ニューアルバム『A GIRL IN SUMMER』を聴いて、「2006年のユーミン」でありながら、一方で「個人としての松任谷由実」は不変という感じを受けました。
私は自分の音楽に「せつなさ」を求めているので、そこは変わらないと思いますね。人間は生まれるときも死ぬときもひとりというのがあるから、生きているときに他者を求めるのだろう、と。そういう考え方の、基本的な部分はやはり変わらないと思います。
──もう一方で、今回のiTunes Music Storeの先行配信には、常に変化してゆくという、ポップミュージシャンとしての一貫した姿勢が表れているような気がします。
私個人と、チーム、プロジェクトとしての「松任谷由実」には若干違いがありますが、後者のほうは新しいツールにしても、配信形態にしても、どんどん取り入れて「変化しているからこそ変わらない」ものを提供できているんじゃないかと思ってるんですね。
たとえば去年「Smile again」が配信の第一弾になったわけだけれど、そのきっかけは一昨年藤原ヒロシくんと久しぶりにパーティで会って、彼がウチに遊びに来たりとかするようになったのね。で、彼はそのときすでにアメリカでiTunes Music Storeを使っていて、そこで松任谷が面白そうだねって興味を持って、いろいろ話を聞かせてもらうようになって。ちょうどそのとき万博(※「愛・地球博」)もあって、各国のアーティストとコラボレーションする曲が生まれて、っていうすごく良い流れがあったんです。
──そういう絶好のタイミングが、配信第一弾につながったんですね。
遅かれ早かれ配信していたと思うけど、「Smile again」はまさに幸運だったと思うのね。私はどちらかというとアナログな人間なんだけど、街に出かけていっていろんな情報をゲットしてくるのもすごく好きなんですよ。こう見えても斥候というか、誰より早く毒キノコを食べてみる人、みたいな部分があるので(笑)。そうやって私が毒キノコを持ち帰ってくると、プロデューサーが分析して標本にする、みたいなね。そういう役割分担が出来ていて、その総合のキャラクターが「ユーミン」として機能してるんじゃないかなって思います。
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