子どもたちの感性を豊かにする「音」とMac
慶應義塾幼稚舎 サウンド・エクスプローラ部
慶應義塾幼稚舎で2000年4月に発足した5年生と6年生から構成される5人ほどの小さなクラブ。
西表島、日光、大井川鐵道、月島のもんじゃ焼き屋さん……。あらゆる場所で「音」を聴き、集め続けるという一風変わった活動を行っているのが、慶應義塾幼稚舎のサウンド・エクスプローラ部です。日常に潜む数々の音に耳を澄ませることで、音の世界の面白さを発見していくという活動に、Macが一役買っています。
「音」を聞くことで磨かれる子どもたちの感性
鈴木秀樹 先生(左)と鈴木珠奈 先生(右)
慶應義塾幼稚舎サウンド・エクスプローラ部には、現在6名が在籍しています。部員たちは、主に都内の様々な場所で耳にする「音」をレコーダで録音。また、普段なかなか耳にすることのできない「音」を探すため、年に数回の合宿も行われています。合宿にもMacを持参し、録った音をMacに取り込み、 GarageBandを使って編集し、ナレーションやジングルを加えて、その日のうちにPodcastコンテンツを作成。すぐiPodに入れて、帰りの電車の中で楽しんでいるそうです。
「何となく面白そう」「色んなところに行けて楽しそう」と入部してきた児童も、サウンド・エクスプローラ部での活動を通じて「音の世界」にすっかり魅了されています。「例えば、ご飯が一番の楽しみだったような児童が『西表島はカラスの鳴き声まで優しく聞こえるね』と言ったり、ゲームばかりやっていた児童が『大工さんが釘を打つ音が好きになりました』と言うのを聞くと、『そういうものにまで耳を向けるようになったんだ』と感慨深いものがありますよ」と、担当の鈴木秀樹先生は部員たちの成長を見守ります。
編集のために「音」を何度も聞き直すことで、部員たちは現場での感動を追体験したり、新しい発見に気付いたりと、感性に磨きをかけていきます。「部員たちが、ここまで自分の思っていることを表現できたのか」と感嘆するほど、それぞれの視点で生み出された作品はどれもが個性的。同じものを題材にしても、まったくテイストの異なる作品になるのだそう。自分とは違う観点で作られた作品に触れることで、さらに新しいアイデアが生まれているようです。
Macの使いやすさが変えた、サウンド・エクスプローラ部の活動
サウンド・エクスプローラ部は設立当初、Windows PC1台と、録音機材としてポータブルMDに直接マイクをつないだものを使用していたそうです。「MDを再生させながら、それをオーディオインターフェイスで録音していたので、音源を取り込むのも一苦労でした」と、当時を振り返ります。編集作業も、子どもが扱うには難しそうなプロフェッショナル向けの音楽編集ソフトを使っていたために先生が担当していました。しかし、2006年にMacを導入したことでフローが大幅に変わりました。
サウンド・エクスプローラ部で導入されたiMac 。
「学校外の知り合いにMacユーザが多く、しかも誰もが楽しそうに使い、そしてとても素敵な仕事をしていました。だから、Macはどんなところが魅力なのかがずっと気になっていました」という鈴木先生。実際に使ってみたところ、「GarageBandの使いやすさは衝撃的。これなら子どもたちでも十分に使いこなせる」と思ったそうです。録音した音源をGarageBandで編集し、そのコンテンツをiPodに入れるまでの一連の流れがスムーズなMacだからこそ、現在の環境が完成したのです。「体験したものを自由に表現させることが、子どもの感性を育てることになっているんです。コンピュータって感性の教育に役立つんだなって思うようになりました」。
1年生からWindows PCを使った「情報」の授業が行われている慶應義塾幼稚舎ですが、サウンド・エクスプローラ部で初めてMacに触れた部員でもすぐに使いこなしています。「クラブでWindows PC を使わせたこともあったのですが、すぐに質問攻めにあってしまうのです。ところが、Macの場合はそれがないんですよね。最初に少し説明するだけでみんな自分の力で進めています」と、直感的に操作できるMacの使いやすさに満足しているようです。
サウンド・エクスプローラ部から広がる教育の新しい可能性
部員たちの成長を目の当たりにしてきた鈴木先生は、サウンド・エクスプローラ部の活動に新たな教育の可能性を見出しました。その成果を多くの人たちに発信するため、慶應義塾大学DMC機構でサウンド・エデュケーション・プロジェクトを発足。現在は、WEBサイトで情報発信すると共に、イベントやワークショップに積極的に関わっています。三田の慶應義塾大学にて行われた「ワークショップ・コレクション」では、サウンド・エデュケーション・プロジェクトのワークショップに総勢100名近くの子どもたちが参加しました。Macはもちろん、マウスに触るのも初めてという参加者も自分でレコーダーで音を集め、 GarageBandでナレーションを録音。なんと全員がCDに記録して持ち帰るところまで達成できたそうです。
ワークショップ風景
「音風景に目を向けることで、環境への興味を高め、なおかつデジタル機器にも馴染んで、しかも感性の醸成も目指す。こう言うとかなり欲張りみたいですけど(笑)」と、サウンド・エデュケーション・プロジェクトの目指す方向性を語ります。今後は音を編集するだけでなく、それらを聴いた人たちの感想や思いを共有できるシステムを構築していきたいとのこと。また、また2006年からもう一人の担当として加わった音楽科教諭の鈴木珠奈先生も、新たな展開に向けたビジョンを抱いています。「短いメロディだけを用意しておいて、GarageBandで自由にアレンジさせたら面白いんじゃないかなと思います。それぞれにまったく違った雰囲気の曲が出来上がりそうですよね。最終的にはオーケストレーションの勉強まで発展できたらいいな、って野望も抱いています(笑)」。
また、こういった活動について当初は「若い教育関係者や児童たちだけが興味を持つんじゃないかな」と思っていた鈴木先生。しかし、「部員たちが録音して編集した音を聞いたら、色々な学校の教頭先生くらいの方や、大学の教授たちからも『面白い』と言っていただけたんです」と、想像以上に幅広い層から反響があったことを教えてくれました。この理由について、「みんな耳にしているはずなのに自覚していなかった『音』の面白さに、子どもたちの作品を通じて気づくことができるからじゃないでしょうか」と分析します。
Macを通して聞くことによって広がる新たな音世界。その感動が、子どもたちの次の「音」を探しに行くモチベーションへと繋がります。サウンド・エクスプローラ部の取り組みは、コンピュータと感性教育が有機的に結びついた先駆的な例として、今後の教育のあり方の指標となることでしょう。

