創立者による「全人教育」など際立った教育理念と、幼稚部から高等部までの一貫教育で有名な玉川学園では、小学6年生の校外学習にもiBookやiPod等の情報機器を活用しています。最先端の情報教育を提供する有名校の「情報機器を活用した校外学習」とは、どのようなものなのでしょうか。今回は、特に小学部での情報端末の利用について、溝口広久先生(玉川学園 学園マルチメディアリソースセンター 遠隔教育推進室)に話を伺いました。

米国視察で出会ったMacの使いやすさ

玉川学園とMacの関わりの歴史は、今から10数年前にさかのぼります。 日本の初等教育では情報教育の概念の普及自体まだこれからという時に、コンピュータを活用した教育の可能性を探るために派遣された玉川学園の情報教育担当者が、米国の教育現場で出会ったのが、当時のアップルのコンピュータでした。

渡米時、運よくアップルの本社を訪問する機会を得ました。そして、学園の情報教育を立ち上げたその研究者から、溝口氏はこんな話を後で聞かされたそうです。

アップル社員が口にした、“コンピュータを使って子供たちがどんなことをやるのかに興味がある”という言葉に感銘を受けた。

— 玉川学園 学園マルチメディアリソースセンター
遠隔教育推進室 溝口広久先生

以来、玉川学園では、 幼稚部から高等部卒業までのK-12(Kindergarten to 12 th Grade)の情報教育において、全面的にMacを採用し続けてきています。

玉川学園の情報教育の核、「ChaT Net(チャットネット)」

玉川学園の情報教育の核となっているのは、1998年に開設されたオンラインの教育コミュニティ「ChaT Net」(Children Homes and Teachers Network)です。現在、「ChaT Net」に登録されているのは、同学園の 4年生(小4)〜12年生(高3)までの生徒、父兄、教師、国際交流先の海外姉妹校関係者、および、ChaT Netの運営を手伝うサポーター(学園卒業生)、約9600ユーザーです。「ChaT Net」は、メールやチャットの機能を生かした様々なコンテンツをユーザに提供しています。教員と児童と父兄とのタイムリーなコミュニケーションに利用される他、「野鳥観察」、「環境問題」といったテーマ別にも数十個のオンライン会議室が設けられており、生徒たちの活発な情報交換が行われています。

無線LANも整備されたコンピュータ教育環境

学園内のコンピュータ教育環境も充実しています。小学部の場合、各クラスに数台のiMacが設置されており、日直の児童は、毎日の画像入りのデジタル学級日誌を楽しんで作っています。 iMac 41台からなるコンピュータ集合教室の机や椅子は高さの調節自在で、小さい低学年の児童に背の伸びた高学年の児童が使い方を教える、という玉川学園ならではの独創的な授業にも柔軟に対応します。また、専用カートに収納されて出番を待つiBook 60台は、あらゆる科目の必要に応じて貸し出され、児童1人が1台を使った調べ学習などに役立っています。建物内には無線LANが整備されているため、場所の制約なく、児童たちはいつでもどこでもインターネットを利用できます。

小学3年から始まる情報教育

玉川学園の児童は、3年生から本格的なコンピュータ学習を始ます。まず最初に3年生は、週1時間の授業でコンピュータの基本操作を学びます。4年生になるとAppleWorksを利用した簡単な描画などを習得する一方で、個人のユーザーIDが与えられ、 ChaT Netへのコミュニティデビューを果たし、インターネットリテラシーを徐々に身につけて行きます。5年生は「環境学習」の中でMacを活用し、なかには高度なソフトウェアを自主的に使いこなし、プレゼンテーション資料を作成する児童もでてきます。そしていよいよ6年生は、 社会科単元「源頼朝と鎌倉武士」の歴史学習の一貫として行う 「鎌倉見学」で、教室をとびだしてコンピュータやデジタル機器を利用する機会を迎えるのです。

校外学習に活用されるデジタル器機とは?

6年生の「鎌倉見学」は、1日かけて行う校外学習です。全160人の児童は12グループに分かれ、事前に歴史書等で下調べをして自分たちのテーマを決めます。当日は、それぞれのグループの引率の先生とともに、鎌倉内の見学スポットを歩いて回り、下調べした事柄を実際の地形や史跡につながるものとして理解して行きます。この鎌倉見学は98年から継続して行われてきたものですが、毎年、なんらかのかたちでパソコン等のデジタル機器を取り入れ、情報学習を組み込む実験を行っています。

2005年度は、情報学習の小道具として、カラー画面のついたiPodが採用されました。当日、実際に各グループが携行したデジタル関連機器は次の通りです。

鎌倉見学でのデジタル機器の活用方法

各見学スポットではまず引率の先生が鎌倉時代の説明を行いますが、玉川学園は教科担任制をとっているため、引率の先生は社会科教員とは限りません。具体的な説明は社会科の先生によってあらかじめ用意され、ChaT Netサーバ上に置かれています。児童達は、グループ毎に携帯電話を操作してその動画コンテンツにアクセスします。 そして児童達は、名所旧跡に設置された説明書きや、現地の人から聞いた話、気がついたことなどを手書きでメモに残します。しかし、メモ書きには巧拙やスピードに個人差があることから、今回、新しい試みとして、手書きメモと並行して、児童達にiTalkを接続したiPodをボイスレコーダーとして使わせてみました。

「説明書きを児童が読み上げ音声としてiPodに記録する方が、従来のメモ書き方式よりも圧倒的に早くすみます。以前のように、午後になると予定が押せ押せになってしまうことがなくなりました。また、子供たちは、休憩時間に、iPodに保存したボイスメモを聴きなおし、自分たちが手書きで取ったメモを補足したりしていました。iPodのおかげで、より充実した情報収集ができるようになったのです。」(溝口氏)

また、デジタルカメラで撮影した写真データの保管用ツールとしてもiPodが活躍しました。デジタルカメラのメモリだけでは撮影可能枚数が限られているため、これまでは、見学後半になってくるとメモリが一杯で写真が保存できなくなり、新たな写真を撮るために泣く泣く前の写真を削除する、ということが起きていました。しかし、今回からは、デジタルカメラをケーブルでiPodにつなぐと、直接写真を移し変えることができるため、記憶容量を気にすることなく、好きなだけ写真を撮れるようになりました。

「子供たちは4年生の頃からiPhotoを使った写真の加工・処理を学んできていますから、むやみにたくさん写真を撮ってしまうと後処理が大変だとわかっているようです。ですから、撮影枚数の制限がなくなっても、使い道や構図をきちんと考えながらデジカメを使っていましたね。」(溝口氏)

進化するiPod、進化する情報教育

「来年度は、各見学スポットで見る動画コンテンツも、携帯電話ではなく、動画対応のiPodに収納することを検討しています。」と、溝口先生。携帯電話の場合は必要な時にChaT Netサーバにアクセスして動画を閲覧していましたが、iPodは十分な容量がありますので、あらかじめ必要なコンテンツを入れて持ち歩くことができます。また、屋外で、10数人の児童が同時に視聴することを考えると、画面の大きさや鮮明さ、外部スピーカーにつないだ時の音声の聞き取りやすさにおいてiPodの方が優れています。このアイディアが実現すると、「動画コンテンツの視聴」「ボイスレコーダー」「写真データの一時保管ディスク」の3つの機能をiPodだけで提供することになります。

今回iPodを採用して鎌倉見学で児童が収集してくる情報が音声データ化されたことにより、意外な成果もみられました。

「子供たちはお互いに、どのグループがどんなデジタル情報を持っているかをチェックしていて、収集した情報を共有しあうことを自発的に行っていました。」(溝口氏)

児童たちは、情報共有が容易なデジタルデータの特性を十分に理解し、自分たちが持っていない情報の所在を知ることの重要性を、自ら学んでいたようです。溝口先生は、今後は各グループ1台ではなく、2台づつくらいはiPodを携行させて、子供たちが自発的に、また新しい情報の活用のしかたを発見する様子を見てみたい、と考えています。

鎌倉見学後、児童たちは、あらかじめ決めていたテーマに沿って集めた情報を整理し、プレゼンテーションソフトで資料を作成します。そして、締めくくりとしてみんなの前で一人ずつ学習発表を行います。このように、教科学習に沿った情報教育を通じて、玉川学園小学部の児童たちは、中学部に進む頃には、既に高度なコンピュータ活用能力を身につけているのです。