福島先生

脳神経外科の世界的権威で、年間600例にもおよぶ手術を手がける福島先生。彼の手によって命を長らえた患者は数知れません。その福島先生が今もっとも気にかけていることのひとつが、若き脳神経外科医のレベルアップ。自らの手術イベントを記録保持し、それを教育に役立ててほしいという、強い思いがあります。「脳外科教育の資料として手技を残すためには鮮明で高品質な映像が必要。Macのビデオ編集ソリューションに興味を持ったのも、そこに理由があります」と福島先生。
先生の手術へのこだわり、そして脳神経外科というフィールドにおける映像の役割について、福島先生と弟子の一人である鮫島哲朗先生にお話を伺いました。

年間600例もの手術をこなす驚異の脳神経外科医

福島先生の映像へのこだわりに触れる前に、脳神経外科医としての驚異的な業績について、触れてみます。

福島先生は東京大学医学部出身。10年にも及ぶ三井記念病院(東京都千代田区)の脳神経外科部長を退き、48歳で渡米。今はアメリカで自らクリニックを開業しているほか、DUKE大学、ウエストバージニア大学、ウェイクメディカルセンター、ラーレイコミュニティ病院の4カ所で主に脳腫瘍の手術を手がけています。また、アメリカ国内はもとより、ヨーロッパ、アジアに自ら出向き、執刀することも数知れず。ちなみに現在日本には年に6回ほど帰国し、半月ほどの滞在期間で50件もの手術を執刀するそうです。

現在でも年間600例の手術をこなしますが、三井記念病院時代には900例を超す手術を行ったこともあります。参考までに一般的な脳神経外科医の場合、年間100例の手術でも「かなりの症例数」と見なされます。この数字の差を持ってしても福島先生のすごさが伺えます。そして現在、先生の執刀を待っている患者さんの数は400人にも上るそうです。

私は年間を通してほとんど休まない、せいぜい月に半日程度。そして脳外科医として向上するために、常に努力を惜しまない。(福島先生)

ここ数年、最も近くで福島先生を見ているDUKE大学の鮫島先生は、「これほどまで多くの手術を行い、さらに膨大な日々のタスクをこなせるのは、福島先生だけ」と説明します。実際、まわりにいるスタッフの方がバテてしまうということも少なくないそうです。鮫島先生に福島先生の手術手技に関して伺うと「手先がたいへん器用なこと。精密さとスピードを兼ね備えています。私自身、これまでフランスやイタリア、ドイツ、アメリカで、うまいと言われるたくさんの脳神経外科医の手術を見学してきましたが、手術の細かさやていねいさは日本の脳神経外科医が一番だと思います。そのなかでも突出しているのが、福島先生でした」

鮫島先生が見る福島流手技・手腕

鮫島先生によると、手術野に極力血液をにじませないように細心の注意を払うのが福島流だと言います。そのために異常なくらい神経質と思われるほどの慎重さで、皮膚を切開し、極力小さく頭蓋骨を開けて、病変にアプローチしていくそうです。「むしろ、腫瘍に到達するまでは通常のドクターより遅いくらいです」

そうしたていねいなアプローチの結果、腫瘍に到達したときに、手術野を非常にクリアにすることが可能になります。「そこからがとにかく速い。息つく間もなく手が動いて、腫瘍を摘出していきます。一方、得てして他のドクターは手術時間を焦るがあまり先を急ぎ、いざ腫瘍が現れたときは手術野が血だらけで何が何だかよく分からなくなっている。結果として腫瘍を取る時間が長くなってしまうのです。それが大きな違いで、私が最も敬意を表するところです」

もうひとつ、鮫島先生は福島先生の柔軟な思考や対応にも感銘を受けると言います。「福島先生の場合、どういう状況であれ慌てることなく、その場に応じて工夫することができる、柔軟な思考を持つ数少ない医師の一人だと思います。腫瘍に向かって一直線に攻めるというより、いろいろなオプション、トランプで言うといろいろな手持ちのカードを使って、策を練って攻めていく。その手持ちのカードが非常に多い。それがすごいところです」

「手術一発全治、すべては患者さんのために」

「患者さんのためにこの腫瘍を何としても取ってあげようという情熱が福島先生から強く感じられます。残念ながら中には病理組織診断のため、少しだけ腫瘍を取ってあとは治療にゆだねる、そういう病院も少なくありません。しかし開頭した以上、患者さんの期待に添えるように最大限の努力をするのが脳神経外科医です。福島先生の場合、何時間かかってもいい。手術ですべて取ってあげよう。そんな思い、というより執念がものすごい。言葉がかけられないくらい集中してオペに向かっています」

この「すべては患者さんのために」という意識は、術式の開発、道具へのこだわりにも働いています。道具においては、福島先生は手術中、実に多くの手術道具を用います。その多くが自ら開発したものですが、これもスムーズに手術を進めるために必要であるからこそ、開発されているわけです。 「努力と手先の器用さと道具。この3つが揃って初めて良い手術ができる。この3つをすべて揃えるのが難しければ、せめて自分にあった道具ぐらい揃えた方がいい。そう言いたいですね」と福島先生。先生は脳外科手術の最も重要な機器である手術顕微鏡の開発にも長年携わっています。その1社のオリンパスメディカルシステムズ(株)星野義亜氏は以下のように話します。

「福島先生には手術顕微鏡OME-5000、7000、8000とプロトモデルの段階からご評価いただいてきました。先生からは光学性能、操作性についていろいろご意見を伺ってまいりましたが、中でも顕微鏡筐体アームの動きに対して独自の視点をお持ちでした。先生曰く"味噌すり運動"と表現されていますが、焦点に対してさまざま角度を変えて観察する「ポイントロック」を重視されました。これは、『ちょうどすり鉢で味噌を練る際に、鉢と味噌が接するすりこぎ棒の支点部分を自由に見ることができる状態。これが脳外科手術に必要なアングルそのもの』という表現で、先生の手術では手術部位にあらゆる角度からアプローチされるため、自由なアームの可動が必要だったということです。そのため、全体のバランスを考慮し顕微鏡を操作し、一定の光軸を向けられるように開発にご協力いただきました」

手術顕微鏡写真

若いスペシャリストの育成

自らの技術の向上をいまなお追求する福島先生ですが、一方で現在の脳神経外科医の現状を危惧され、後継者、つまり技術力のある脳神経外科医の育成に力を注ごうとしています。

「脳神経系の分野はとても重要で、脳卒中だけで年間50万件が新たに発症し、今、すぐに治療をしなければならないてんかんの患者さんは、200万人にも上ります。動脈瘤の手術は日本で2万件以上、脳腫瘍の手術が2万件程度行われていますよ」と福島先生。 「若い時点で私と同じくらいのテクニックを習得できれば、将来は私以上にうまい手術ができるようになる。今の若い先生には最低でも福島レベルになってもらいたい。できれば私よりもうまい、手術成績のよい脳外科名医を育てたい」というのが今の率直な気持ちだと言います。

他の先生の手術ビデオを見ることは非常に勉強になりますね。そこが福島先生がビデオにこだわり、Macを使って編集している理由でもあります。(鮫島先生)

一方、鮫島先生は「手術で身を立てたいと思うのであれば、世界中の脳外科医がどんなことをしているか見聞を広め、"本物"を見るべき」といいます。「他の施設の手術を実際に見に行くには、時間的制限があります。多忙を極める日本の脳神経外科医にはなかなかできることではありません。その近道の1つは手術のビデオを見ること。自分だったら、どうオペをするか、自分にはね返しながら他の先生の手術ビデオを見ることは非常に勉強になりますね。そこが福島先生がビデオにこだわり、Macを使って編集している理由でもあります。」

「例えば、オリンピックの金メダリストを見ていると、誰もがむちゃくちゃな努力をしている。その上にバツグンのコーチがいる。そう考えると、脳神経外科はいいコーチがたくさんいるのに、それほど金メダリストが育っていない。それは残念なことです」(福島先生)

次ページ:Dr.福島が選択したアップルのビデオ編集ソリューション