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この20年の間に医用画像はアナログからデジタルへと移行しました。この移行により、多くのメリットがもたらされましたが、新たな課題も生じています。MRI、CT、PETでは、数百枚、場合によっては数千枚の画像が生成され、その容量は合計で数ギガバイトにもなるため、高額な画像処理ワークステーションを利用できる医師以外はそれらのデータを利用できませんでした。 2003年末にUCLA(カリフォルニア大学)の放射線学科(Department of Radiological Sciences)の教授で情報システムの副委員長を務めていたOsman Ratib先生の頭に真っ先に浮かんだのはこのことでした。その当時、ジュネーヴ大学(University of Geneva)の放射線科医で、かつてRatib先生の生徒であったAntoine Rosset先生が、1年間の特別研究員としてUCLAに赴任したばかりで、2人はRosset先生の研究の方向性を検討していたところでした。 Ratib先生によれば、「UCLAには、CT、PET、MRIで撮影された膨大なデータがあり、それらを使えば人体を精緻にくまなく再構成できることはわかっていました。多くの医師はデータを2次元のスライスで閲覧しなければなりませんでしたが、これらの大量のデータセットを再構成し、3次元で閲覧する、という新しい流れが確立されようとしていました」 「問題は、一般の医師がこれを行うためのツールを利用できないことでした。このツールが利用できるのは、ハイエンドなモダリティ機器と一緒に購入される超高性能ワークステーション上だけでした。一方、研究者の間では、VTK、ITKといった非常に優れたオープンソースの3Dツールが登場していましたが、一般的で使いやすいコンピューティングプラットフォームには対応していませんでした」 Ratib先生はかつて、医用画像の標準規格であるDICOMに準拠した、クロスプラットフォームの画像ビューワ、Osirisの開発プロジェクトに携わっていました。しかし、Osirisでは1枚のスライス画像しか表示できず、医療関係者は、大量のデータセットをインタラクティブに操作できる、より高度なツールを必要としていました。Ratib先生とRosset先生は、Osirisを1から書き直す時期だと判断し、今回は既存のオープンソースの画像処理ツールキットを使って、ハイエンドの画像処理ワークステーションのソフトウェアに匹敵するアプリケーションを一般的なパソコンで動作するアプリケーションとして作成し、オープンソースとして公開すべきと決めていました。Rosset先生は、放射線科医であるだけでなく、プログラミング開発の経験も豊富で、2人は、Rosset先生がUCLAで過ごす1年間で次世代のDICOMアプリケーションを開発することに決めたのです。。 Ratib先生はOsiriXと命名したこのアプリケーションをMacで開発した理由は多々あると述べています。「Macのハードウェアのバランスは優秀で、G5は他の製品と比較して高性能です。OpenGLのサポートもすばらしく、開発環境はまさに我々が必要としているものです。Antoineは1年間、アップルが提供する最新で最高のツールとテクノロジーを活用して、このプロジェクトに取り組みました」 彼はさらに、アップルのXcode開発環境とCocoaフレームワークが「欠けていたリンク」を埋め、シンプルでも高機能なGUIでさまざまなソフトウェアテクノロジーを統合できたと付け加えました。 1年も経たないうちに、Rosset先生はOsiriXの最初のバージョンを完成させました。オープンソースとして発表されて以来、世界中のプログラマが機能を追加し続けて、現在では3000人以上に利用されています。OsiriXは、高機能なビジュアライゼーションツールを外科医、内科医などの医療従事者が自由に使えるようにしたことで、大きな成功を収めています。OsiriXがなければ、これらの医師は患者の検査画像にアクセスし、閲覧できる恩恵を受けることはなかったでしょう。 MacプラットフォームならではのメリットRatib先生によれば、「市場からもたらされるテクノロジーにより、放射線科の手法が変わってきている」と言います。中でも新しいDICOMビューアソフトウェアOsiriXにMacプラットフォームを選択したことはそれを象徴しています。Macプラットフォームは、製品、テクノロジーを含め、リソースが豊富で、他のプラットフォームよりもずっと有用なアプリケーションを提供できる、と言います。 これらのリソースはMac自体に統合されているため、開発者は他社の製品やテクノロジーよりも短時間で簡単に使うことができます。さらに、統合リソースを使用する方が、ソフトウェアの安全性の向上、ユーザインターフェイスの一貫性、製品のインストールと設定の問題の少なさなど、ずっと優れたユーザエクスペリエンスを提供できます。 iPod:医用画像をコンピュータから解放OsiriXがMacプラットフォームからどのように恩恵を受けたのかを示す最初の例が、幅広く使われているiPodの画期的な利用でした。 Ratib先生は「iPodを使うことにしたのは、ディスク容量が必要だったという単純な理由からでした。我々が取り扱っている数ギガバイトもの画像はCDやフラッシュメモリ、DVDでさえも保存には適さないのです。自分が所有する40GBのiPodには多くの空き容量があったので、これらの大容量の画像を手作業でiPodに移して使い始めたのです」と語っています。 「そこで思いついたのが、『OsiriXをiTunesのようにできないか』ということでした。早速、OsiriXを変更し、iPodをMacにつなぐと、OsiriXがiPodの中のDICOM画像を検索し、自動的に取り込むようにしました。また、簡単な操作でOsiriXからiPodに直接画像を書き出せるようにもしました」 iPod photoの発表により、Ratib先生は、OsiriXとiPodのコラボレーションを容易にするツールとすることを思いつきました。「OsiriXを少し変更し、DICOM画像をiPhoto経由でiPodに書き出して、iPod photoの画面やTVに表示できるようにしました。さらに、データからムービーを作成し、Macがなくても、iPod上で直接3次元映像を回転できるようにしました。この変更により、ポケットで持ち歩けるデバイスに大容量のデータセットを取り込むだけで、共有やコミュニケーションが可能になり、臨床での使用、特に学術分野での活用に大きな影響を及ぼしました」 iChat AV:ビデオ会議が容易にRatib先生は、他のDICOMビューアでは不可能な機能であり、Mac OS Xのビデオ会議アプリケーションであるiChat AVから発想を得た、OsiriXのコラボレーション機能を作成した経緯を次のように説明します。「私は長年、ITの世界に従事しており、遠隔診断を可能にするビデオ会議の実現にも多くの時間を費やしてきました。ビデオ会議の実現は様々な要素から成り立っているため難しいのです。専用のハードウェアとソフトウェアを管理する必要があり、ISDNやADSLとの連係、サービスプロバイダの対応、セッションのセットアップなど、さまざまな課題があります」 「iChat AVを使えば簡単です。OsiriXの変更は、オープンソースプロジェクトからOsiriXの画像をiChatのビデオストリームにフィードするコードを再利用することだけでした。ビデオ会議の相手はiChatカメラからの映像を見るようにOsiriXの画像を見ることができます。iChatとOsiriXを使って、世界中の誰とでも非常に簡単に遠隔画像診断を行えます」 iDisk:OsiriXユーザの共有が簡単にOsiriXをコラボレーションのためのツールにするもう1つの方法が、アップルのオンラインサービスの.Macに付属するiDiskです。iDiskはすべてのMacにシームレスに統合された要素として開発されているため、Ratib先生率いるOsiriX開発チームは問題なくツールバーにiDiskのアイコンをOsiriXに追加でき、ユーザは画像データセットをワンクリックでiDiskに送受信できるようになりました。iDiskはMac OSに組み込まれているため、他のインターネットベースのストレージシステムとの連係をはかるよりもずっと簡単に機能を追加できました。また、iDiskとのリンクは不具合が少なく、ずっと優れたユーザエクスペリエンスを提供できます」 ファイル共有を簡単にしたことで、さまざまな診療科の医師、放射線科医やその他医療従事者でOsiriXを使って、例えば、同じ画像を見ながら電話で協力し、患者のケアの質を向上できます。(WindowsユーザもFTPを使ってiDiskの画像をダウンロードできます。) Ratib先生はOsiriXによって医師のQOLにも向上すると述べています。「多くの医師はiDiskに画像をアップロードし、自宅のMacから検索できるOsiriXが気に入っています」 また、OsiriXは、患者の個人情報をDICOMデータから抜き取って、患者の個人情報保護の義務に違反せずにデータを共有できるデータアノニマイズ(匿名化)という重要な機能も搭載されています。この機能を使えば、患者の個人情報に触れることなく、データを閲覧することができます。 QuickTime VR:ビジュアリゼーションの恩恵を共有OsiriXの最も重要な機能の1つが、MRIなどのモダリティ機器から出力された大量の2次元画像の「スライス」を3次元データに再構成し、さまざまな角度から表示できることです。OsiriXが登場するまで、ハイエンドなワークステーション以外で医療従事者がスキャナのデータの3次元表示を見ることはできませんでした。また、医療従事者がこれらのインタラクティブな3次元画像を共有したいと思った場合は、画像データをAVIフォーマットで書き出す以外に選択肢はありませんでした。AVIファイルでは、2次元画像が時系列に並べられた状態でデータが保存されるため、ファイルを再生すると、特定の順番で3次元画像のアニメーションが再生され、それ以外の操作は一切行えませんでした。 OsiriXはMacプラットフォームで開発されているため、OsiriXの開発チームは作成する3次元画像をQuickTime VRファイルに書き出す機能を追加できました。MacまたはWindows版のQuickTime Playerで表示可能なQuickTime VRファイルにより、ユーザは、保存された3次元のオブジェクトをあらゆる軸でインタラクティブに回転することができます。 QuickTime VRファイルとして保存されるインタラクティブな3次元映像により、ユーザはより豊かで直観的に3次元データを操作できます。医療従事者は、OsiriXを使って、1つのデータセットをさまざまに解釈し、QuickTime VRファイルに書き出して、カンファレンスで一緒に閲覧したり、emailで医師達に送信したりすることができます。 Ratib先生はOsiriXのQuickTime VR機能は簡単に開発でき、医療従事者の間で非常に一般的な機能になったと述べています。QuickTime VRを使ってOsiriXの画像を共有することで、既存のデータの有用性が増し、より多くの人達が利用できるようになっています。 さらに、OsiriXのQuickTime VR機能は医療従事者がこれまでに手にしたことのない機能です。「これほど簡単に低コストでバーチャルリアリティを実現できる機能を持つハイエンドベンダーは存在しませんが、OsiriXなら可能です。」 XcodeとCocoa:少人数で不可能を可能にRatib先生は、少人数の開発チームでも高機能なアプリケーションを短時間で作成できたのは、アップルの開発環境のおかげと語っています。「XcodeとCocoaはすばらしいです。従来のプログラミング環境を使っていたら、OsiriXに密接した機能は絶対に作れませんでした。XcodeとCocoaのおかげで、想像もできないほど迅速に開発を進めることができました」 Ratib先生は、アップルの開発環境のおかげで、Rosset先生はOsiriXを早期に完成できたと述べています。「Antoineは毎日のようにXcodeのおかげで開発が簡単になったとべたほめしていました。Antoineは他のプラットフォームで開発プロジェクトを遂行したことがあり、従来のC++開発環境とXcodeの違いを知っていました。プラットフォームのすべてがXcodeに統合され、GUIを使って作業でき、デバッグ環境はすばらしいとしか言いようがありません」 マルチプロセッサ対応とXgrid:高いパフォーマンスが自動的にRatib先生とRosset先生は、OsiriXの開発中、複数の画像処理スレッドを同時に実行できるようなコードを作成することの重要性を認識していました。複数スレッドの同時実行により、OsiriXは現在のデュアルプロセッサ搭載Macだけでなく、将来のマルチプロセッサ搭載モデルでも活用できます。 Ratib先生は、アップルのマルチスレッド対応アプリケーションの作成に関するガイドラインに従うことで、OsiriXはアップルのマルチプロセッサ、グリッドコンピューティング構想を活用できると述べています。 「アップルが代わりに行ってくれるので、我々が特殊なプログラミングを行う必要がないことが、Macプラットフォームを使うメリットです。我々は、OsiriXがアップルのマルチスレッド、マルチタスクに対応しているか確認するだけで済みました。確認をしたことで、OsiriXはデュアルプロセッサ搭載のG5でも、プロセッサを10基搭載したクラスタでも、プロセッサを20基搭載したグリッド環境でも動作するでしょう。」 彼はさらに、開発チームがOsiriXをアップルのXgridテクノロジーと統合する計画であると述べています。この統合により、各地のMacユーザは他のMacの空き時間を利用でき、OsiriXの高速化が実現されます。1台のMacではレンダリングに数時間かかる高品位のQuickTime VRムービーを作成する場合は特に有用となるでしょう。 MacとOsiriX:発展し続ける組み合わせRatib先生は、実際にそのような行動に移るかどうかはわからないけれども、医療関係者のコミュニティで、OsiriXのLinuxへの移植の可能性について話題になったことがあると述べています。確かに、本記事で取り上げた機能を含め、OsiriXでよく使用される有用な機能の多くはMacプラットフォームのテクノロジーと密接に関わっており、そういった機能のLinux版での提供は不可能だとする見方はこうした試みへの意欲を削いでしまうかもしれません。 しかし、Ratib先生は、Mac OS X v10.4 Tigerの最新テクノロジーをベースに、OsiriXをさらに強化していく予定だと述べています。OsiriX開発チームのこれまでの活動ぶりから考えれば、OsiriXは今後もMacプラットフォームのテクノロジー・アドバンテージのモデルケースとして、数多くの利点を示し続けてくれることでしょう。 OsiriXについて詳しくはOsiriXのWebサイトをご覧ください。 |
