医用画像と通信の世界的な標準規格であるDICOMは、いまや医療における画像利用・管理において中心的な役割を担おうとしています。そのDICOM画像を表示し、さまざまな画像処理がおこなえる100%無償でオープンソースのDICOMビューア「OsiriX」の登場は、医療現場にどのような変革をもたらそうとしているのでしょうか。 OsiriXのパワーユーザであり、医学分野と工学の交わる領域でビジュアリゼーションを中心にさまざまな研究・開発に携われている山本修司先生(東京大学医科学研究所 細胞プロセッシング研究部門客員研究員、東北大学大学院工学研究科COEフェロー)に、最近バージョン2にメジャーバージョンアップしたOsiriXを中心にお話を伺いました。

医療分野でのビジュアリゼーションの理想的環境

医療現場におけるビジュアリゼーション技術の導入と応用は、最近その重要性がますます高まっていますが、日本の病院施設では、それらの技術と臨床との融合がまだ充分ではないと山本先生は指摘されます。「米国を例に取ると、すでに病院内に理工学の専門家が入り、工学的技術の成果が医療現場のニーズに答えられる体勢が整いつつありますが、日本では「医工連携」という言葉を最近よく耳にするようになったものの、具体的には、まだ何も進んでいない状況で、現在、日本の病院施設内に設けられている医療情報部は、実状的には、病院内ネットワークの管理、PACS(ピクチャー・アーカイブ・アンド・コミュニケーション・システム)の管理などで手一杯になっている」とのこと。山本先生は、医療用ソフトやコンテンツを開発するプログラマ、臨床に即したアイデアを出してくれるドクター、それらを統括するサイエンティスト・コーディネータが一体となって働ける環境が病院内に作られるのが理想的であるといいます。

「例えば、外科では手術計画を立てるために使いやすいソフトを作って欲しい、放射線科では診断に利用可能な3次元ソフトが欲しい、放射線治療のための線量分布を3次元で表示したいといった、それぞれの科の要望に応えられる部門があれば、そこから病院独自のシステム構築が可能になってゆくでしょう」

山本先生は、こういった目的に応用できる優れたソフトウェアの一つとしてOsiriXを捉え、研究を進めておられます。「私の研究テーマは、細胞・組織レベルから臓器・人体レベルまでマルチスケールのバイオ・医用分野でのビジュアリゼーションやシミュレーションですが、OsiriXによって最新の診断や治療とその教育に有用なソフトウェアを開発できる環境が整ったと期待しています。

各診療科におけるDICOMソリューションの必要性

OsiriXは無償で配布され、専用ワークステーションクラスの機能を有する画期的なソフトウェアです。このアプリケーションをインストールしたMacは、ローコストでありながら有用性の高いDICOMワークステーションとして使用可能になります。

はじめに、なぜ現在、DICOM規格が医療関係者の間で重要視されてきているのかを伺いました。山本先生は「まず、日本はCTスキャナの保有台数が人口100万人あたりの台数でいえば、欧米諸国の倍以上あり、昨今、放射線科だけでは扱いきれないほどCTやMRIによる医用画像の発生量が急増しており、それに伴って他科でのDICOMの取り扱いも増えている、ということがあげられます。そして、DICOMでは、画像データにヘッダー情報(属性情報)が付加されます(画像とその属性が含まれたデータをDICOMオブジェクトと呼ぶ)が、このヘッダー情報には、撮影者、患者データ、撮影条件などが記録されます。データ整理や、のちに3次元画像などを再構成する際に必要な情報となるだけでなく、リスクマネージメントにも役立つものでもあります。DICOMは、このように医用として考えられた規格であるだけに、今後は、放射線科、脳神経外科、外科といった垣根もなくなり、さまざまな科においてさらに利用が進むと予想されます」とコメント。

そのようなDICOM規格のオブジェクトが簡単に表示でき、専用ワークステーションに匹敵する高機能と操作性の良さが実現されているのがOsiriXと言えそうです。「現在のような放射線科以外の他科でのDICOM利用という状況においてはOsiriXのように高機能でかつ導入コストが圧倒的に低いものは歓迎されると思います。また、PowerBookなどのノートブックでも動作するので、教育用途にも効果的に利用できます。」と山本先生。

さらに、ここ1〜2年の間に16スライスあるいは64スライスという驚異的な同時撮影速度をもつCTが登場して来ました」と山本先生は述べられたうえで、「しかし、CTには被爆の問題があります。ですから、これらのモダリティが出力する大量のデータをどのように有効活用するか、最小限の撮影でどのように最大の画質効果・臨床情報を得るか、ということが現時点での大きな課題だと思います。そういった意味で、OsiriXは、ローコストでDICOMデータを有効活用できる環境を作り出す、大変期待されるソフトウェアと言えるのではないでしょうか」


よく練られたユーザインターフェイスと痒いところに手が届く実装

最近Ver.2にメジャーバージョンアップしたOsiriXについて伺いました。
「Ver.2になって最低限DICOM"ワークステーション"として必要な機能はきっちりついてきたと思います。従来の高機能ワークステーションが時間をかけてきたところにはそれほど手を加えず、これから将来必要となるであろうところのインターフェイスの吐き出し(他のソフトウェアで読み込めるファイル形式)とか、そういうところに視点をおいているところがすばらしいと思います。そして、従来も同様でしたが新機能についても直感的に触れる部分のユーザインターフェイスの工夫がすばらしいです。このユーザインターフェイスの部分は相当練られていると思います。ユーザビリティの部分ですね。例えば、Ver.2で新しくついたフライスルーの機能(組織・臓器の付近を飛行するように眺めることが出来る機能)ですが、フライスルーを(OsiriXのように)簡単にXMLファイルや動画に書き出すことができるものはなかなかないので非常にいいと思います。OsiriX 2のフライスルー機能のように3Dの各シーンーA点、B点、C点をスプライン補間でスムーズにつないでQuickTimeムービーに書き出してくれる、というような機能もなかなかないんです。今後フライスルーしながら不透明度も変えれるようになると思いますので、視点を移動させながら皮膚から段々骨が透けて見えてくるみたいなこともできるようになりますね。」

また、Ver.2でサポートされた仮想内視鏡機能についてお伺いすると「フライスルー/仮想内視鏡機能ではサーフェイスレンダリングベースとボリュームレンダリングベースの両方からのアプローチが可能ですが、仮想内視鏡機能についてはシステマティックに操作する部分であと、もう一段階、高度な機能がほしいところです。例えば、Virtual Bronchoscopyとして使うなら、自動フライパス生成機能(3次元細線化によるパスの抽出後,自動でそのパスを移動していく機能)、MPR,MIP,また、パスに垂直な断面スライスとそのCross-sectional area プロファイルによる、気道径や気管支厚の評価ツールなどの連携ツールがほしいです。こういったプラグインなどが出てくれば呼吸器科支援ツールとかあるいは消化器外科支援ツールとか特定の分野に特化した機能に発展していくのではないかと予想しています。また、はじめから人工気管モデルや人工腸管モデルなどのSTLやVRMLフォーマットモデルを解剖学的な知識をもとにあらかじめ作成しておいて、教育用にサーフェイスレンダリングベースのフライスルーを表示するのは、内視鏡トレーニングツールとてもユニークだと思います。ともあれ、OsiriX 2ではプラットフォームとしてフライスルー/仮想内視鏡機の機能がついて今後の発展性が確保された、ということの意味が大きいと思います。」とコメントされています。

また、今回Ver.2で機能向上したROI(Region Of Interest)ツールに関して伺うと「(機能向上がはかられた)ROI機能に関しては非常にすばらしいとおもいます。実践でやっている人しかわからない痒いところに手が届く実装になっています。例えば、どうしてもROIはマニュアルで設定しないといけないんですが、さすがに500枚のスライスを1枚1枚ROIツールで囲ってられない。OsiriXでは標準でThick Slabという機能があってスライスをまとてめROIで囲むことができる。この場合ROIというよりはVOI(Volume Of Interest)ですが。こういった機能は高機能ワークステーションでもオプション機能であることが多く、標準でサポートしているOsiriXはなかなかするどいな、と思います。」