ネイティブHDVに対応したFinal Cut Pro 5の画面。
HD映像編集を強力にサポートするFinal Cut Pro
福本氏は、これまでにデジタルビデオカメラでの撮影を数多く手がけてきた。大森監督との最初の出会いとなった『恋文日和』もソニーのDSR-PD150(DVCAM)で撮影後、フィルムプリントを起こした作品だった。「デジタルでの撮影は好きです。カメラが小型で小回りが利く、作業も簡略化できるといったメリットはDVの時代から感じていました」(福本氏)。『ヒロイン』撮影に使ったHVR-Z1Jは、以前使っていたDSR-PD150のハイビジョン対応版にあたる製品だという。
HVR-Z1Jを選んだ理由を、福本氏は次のように語る。「数年前までは、HDVカメラといえば、撮影現場でモニタリングができず、使い勝手の悪いものでした。HVR−Z1Jは完全なHDでのモニタリングはできませんが、それに近い画質でリアルタイムでの再生が可能です。その上、1080iというのは、私自身が感動してしまうくらい情報量が多く、緻密な映像が撮れるのです」(福本氏)。
福本淳氏は、短編映画『ヒロイン』の撮影を担当。
そんなハイビジョン映像の編集を強力にサポートしたのが、Final Cut Proだったと福本氏は語る。「Final Cut Proは最初のバージョンから使っています。初期のバージョンこそカット編集の機能が中心でしたが、現在ではさまざまな機能が付け加えられていますし、他のソフトとのコンビネーションもいい。いまや、HDの制作センターだと言ってもいいでしょうね」(福本氏)。福本氏自身も、撮影した映像のカラーコレクションにFinal Cut Proを使っている。「Final Cut Proのカラーコレクション機能は非常に強力で、色のトーンが容易に統一できるのがいいですね。HDVのネイティブフォーマットに対応している編集ソフトは他にもありますが、他社の製品に比べるとFinal Cut Proには『映画づくりをMacの画面上で全てできるようにしよう』という気持ちが見える。その点が特に気に入っています」(福本氏)。
2004年に撮った『2番目の彼女』という作品では、自らWindowsパソコン上で編集を行った経験を持つ大森監督の目にも、Final Cut Proは魅力的に映ったようだ。「今回は、編集は他の方にお願いして、私は後ろに立って編集画面を見ながら指示を出したり、意見を言ったりするだけでしたが、Final Cut Proではこんなに色々できるんだというのが、良くわかりました。もう少し時間があれば、自分でやりたかった。チャンスがあれば、次はFinal Cut Proで編集してみたいですね」(大森監督)。
映像の取り込み、編集、書き出しを行ったマシンは基本的にPower Mac G5 1台だけだった。
『ヒロイン』では、60分テープ4本分の映像を撮影し、2カ月ほどの期間をかけて編集作業が行われた。最終的には19分の作品となり、2005年10月15日、東京国際ファンタスティック映画祭で上映された。「会場となった新宿ミラノ座は、日本有数の大型スクリーンを持つ劇場です。プロジェクターはハイビジョンでの上映にも対応していましたので、われわれはデッキさえ持ち込めばよかった。HDVの情報量を持ってすれば、客席で映画をご覧になっている方々は、もはやそれがフィルムかビデオかなんて気にしなくていい時代になったのです」(福本氏)。
短編映画『ヒロイン』は現在吹き替え版と字幕を制作中であり、近い将来、日本から世界に向けて発信することを目指しているそうだ。「インターネットによる配信の際は、ぜひH.264コーデックでデジタル配信したい」というのが、福本氏の願いでもある。「一度、アップルのQuickTimeのWebサイトにあるHD Galleryを見れば、その目の覚めるようなシャープな映像に驚きますよ。デジタル映像は、映画館のスクリーンで見るより、パソコンの画面の方が綺麗なくらいです。HDVとQuickTimeから、新しい映像体験が生まれるのではないかと期待しています」(福本氏)。
短編映画『ヒロイン』を撮り終えた大森監督の思いは、早くも次の作品に向かっている。「少ない機材、少人数のスタッフで、誰でも映画が作れる。小学生だって映画を作ろうと思えばできる時代だからこそ、作るチャンスを逃してはいけないと思っています。今年も何か新しい作品を作りたいですね」と語る大森監督。日本ではまだ数少ない女性映画監督の次回作にも、大いに期待したい。
取材:2006年2月