©2006 映画「日本沈没」製作委員会

コミュニケーションツールとして欠かせないFinal Cut Pro


樋口監督とMacの付き合いは古い。「初めて買ったのは、Mac IICiでした。バンダイの渡辺繁さん(現バンダイビジュアル専務取締役)がMac IICxを持っていて、彼の強い薦めだったのです。メモリも積めるだけ積んで、『これでホントに元が取れるのか』と思うほど、当時としてはすごい金額がかかりました」(樋口監督)。ところがそこは樋口監督。薦められて購入したMac IICiの元を取るべく、徹底的に使い込んだ。この頃専ら利用していたアプリケーションはPhotoshop。このMac IICiとPhotoshopから、様々なアートワークが生み出されることとなった。

しかし、そんな樋口監督も一時はMacから離れる。「一年ほどアメリカで仕事をすることになったので、発売されてすぐにPowerBook 180cを購入したのですが、日本語環境は使えない。その上、仕事をしていたスタジオはWindows NT環境で3D Studio MAXを使っていたため、その当時はシステム管理者に『Macをネットワークに繋ぐと調子が悪くなるから、Macは絶対に接続禁止』と言われてしまった。結局挫折してMacを使うのをあきらめたのです」(樋口監督)。

©2006 映画「日本沈没」製作委員会

Windowsに傾いた樋口監督の心を再びMacに引き戻したのは、Final Cut Proの登場だった。「アニメのオープニングで曲を合わせてタイミングを確認したりするには、Final Cut Proが最適。他のソフトではダメ」というほど惚れ込んでしまった。樋口監督がそのFinal Cut Proをフルに仕事に活用した最初の作品が、「ヒグチしんじ」の名前で監督を務めた劇場映画「ミニモニ。じゃムービー お菓子な大冒険!」(2002年)。実写部分が約3分の1、残り3分の2はCGアニメーションというこの作品で、与えられた制作期間はわずかに3カ月だった。

「この映画には、モーニング娘。やミニモニ。の妹分にあたる小学生の女の子たち(ハロー!プロジェクト・キッズ)が登場するのですが、誰も芝居の経験がない。アフレコなんて絶対無理だと思ったので、最初に台本に沿って台詞だけをすべて収録し、台詞を絵コンテに合わせてFinal Cut Proに切り貼りして、後からそこに映像やアニメーションを当てはめていくという手法で作りました」(樋口監督)。

制作スタッフはそれぞれの仕事で手一杯。そこで、スタッフとのコミュニケーションの多くをインターネットを通じて行った。「FTPでデータをやり取りして、Final Cut Proのデータを更新して仕上がり具合を確認しては、メールでダメ出しするというのを繰り返していましたね。毎晩3時間くらいメールを書き続けました」(樋口監督)。Final Cut Proを進行管理のベースとして、またコミュニケーションのツールとして利用し、大勢のスタッフと協力しながら制作を進めるという方法は、その後の長編映画制作にも受け継がれていくことになった。

Macと映画制作についての熱い思いを語る樋口監督。

樋口監督が「映画監督」という仕事を進める上で、今やなくてはならないツールとなったMac。とはいえ、Final Cut ProやAfter Effectsのようなソフトウェアの登場で、いまや一人で映像作品を作り上げることもできる時代だ。樋口監督にはそうした欲求はないのだろうか。

「僕は、一人でやるより絶対に大勢の才能を集めて作った方が良いものになると考えています。だから、Macは自分の考えや想像力をアウトプットする道具として、検証に使うだけ。僕自身はフィニッシュワークはやりません」。その後、樋口監督はこう続けた。「でも、この間とうとう自分でやったんですよ。僕の出身地のCATV局から、地元の映画館が閉館するのでコメントが欲しいと頼まれた。取材を受けている時間がなかったので、DVをセットして自分で自分を撮影して、Final Cut Proに取り込んで、カット編集して、テロップも自分で入れて…。忙しいのに何でこんなことやってるんだろう、でも面白いよなぁと思いながら…」。その言葉の端々から、映像を作ることが本当に好きなのだという思いが感じられた。

樋口真嗣監督の最新映画「日本沈没」は、2006年7月15日より全国東宝系にて公開。

取材:2006年6月