非圧縮10bitHDフォーマットに対応したFinal Cut Pro。

デジタルならではのハイクオリティを追求


田中氏が所属するデジタルシネマソリューション部は、映画作りをトータルでサポートする部署として、2004年7月に発足した。その最初の仕事が、デジタルシネマを一から制作できるシステムを構築することだった。そこで、VFXスーパーバイザーとしてCGや合成の仕事に十余年携わってきた田中氏が、設計を任されることになった。

「最も時間をかけたのは、機器の検証です。メーカーがすべてチューニングしてくれるターンキーシステムと違って、自分たちでMacやFinal Cut Proといった製品を組み合わせ、映画制作に要求されるクオリティを満たすシステムを構築するとなると、不足する機能が出てきたり、ソフトウェアのバグに対する配慮もしなければなりませんでした。ソニーPCLに、これまでに蓄えてきたビデオやコンピュータ、映像機器に関する様々なノウハウがあったからこそ実現できたと考えています」(田中氏)。SAN環境により、同時に複数のクライアントマシンによるHD10bit RGB4:4:4リアルタイム編集を実現したシステムが本格的に稼働を始めたのは、2005年1月のことだった。

映画「天使」はこのシステムを使って制作された初の劇場公開映画ということになる。「『天使』はドラマ部分をYUV4:2:2、合成シーンは10bit RGB4:4:4で収録しています。これは、デジタルビデオフォーマットとしては最高の規格です。CMのように尺の短いものなら他のポスプロでも編集できますが、映画一本を編集できるだけのシステムを持っている企業は、日本には数えるほどしかありません。我々のシステムと、映画制作のタイミングがちょうどうまくマッチしたというわけです」(田中氏)。

映画「天使」の編集を担当した上野聡一氏。

では、クリエイターはソニーPCLの新しい編集システムをどう見ているのだろう。映画「天使」の編集を行った上野聡一氏は、PowerBookの機動力の高さにメリットを感じたと言う。「『天使』の編集については、オフライン編集室を借りるか、PowerBookで編集するか、という2つの選択肢がありました。毎日編集室まで足を運ぶのが面倒だと考えて、PowerBookを選びましたが、実際にやってみると、様々な場所に移動できるというのは思いのほか便利でした。監督のところへ持っていって見てもらったり、また、会議室やスタジオの片隅でも編集ができるというのは、新鮮な体験でした」(上野氏)。

上野氏によれば、デジタル編集の難しさは、ディスプレイ画面で見る場合と、映画館の巨大なスクリーンで見る場合との見え方の違いにあるのだと言う。「ディスプレイを見ながら編集していると、ついカットを細かく切り過ぎてしまいがちです。普段から、スクリーンではこう見えるだろう、と想像しながら編集するようにしていますが、今回は編集中にスクリーン上で確認する機会が何度かあったので、感覚がつかみやすかったですね」(上野氏)。「天使」の場合、ソニーPCLにプロジェクトファイルを渡してから中1日から2日でスクリーン上で見ることができたと言う。

従来の映画制作のプロセスでは、オフライン編集からオンライン編集へ移行した段階で、さらに編集を重ねるケースも多いそうだが、今回は「オフラインとオンラインのギャップが少ない」と感じたそうだ。

新たな手法でデジタルシネマ制作にアプローチし続けるソニーPCL。田中氏は最後にこう結んだ。「フィルム撮影の歴史は100年以上に及びます。それに対してビデオは40〜50年。HDにいたっては、まだ20年ほどの歴史しかありません。デジタルをどう使うか、そのパフォーマンスをどのように出していくかはまだまだこれから研究の余地がある。デジタルは決してフィルムの代替品ではありません。デジタルには、デジタルならではのハイクオリティというものがあり、これからもそれを追求していきたいと思います」(田中氏)。

取材:2005年12月