Final Cut Proを使った実際の作業画面。直感的なインターフェースに、高機能な編集ツールが凝縮されている。
新旧カットの融合に不可欠だったツール
──絵コンテに従って映像を編集するだけでなく、全体的な物語展開を見通す上でも大きな役割を果たしたというのですね。
富野:絵コンテでは極めて観念的な画の並びでしかなかったものから、第一次編集の段階で、シナリオ、絵コンテ、映像の演出に関わる点検をすべて同時にやることができるんです。「何か足りない」と思っていた部分に3秒のカットを入れるだけでつながる、といったことも、第一次編集作業でわかるようになります。だからもう単なる編集作業じゃないですね。
──ほかにはどんな点でFinal Cut Proが貢献しましたか?
富野:「台詞あわせ」も重要ですね。このカットはこの秒数しか使えない、という制約の中で、動画を見ながら台詞を自分で声に出してあてていくわけです。基本的には台詞に合わせて画を変えることはせず、台詞の方を変えるわけですが、それでも完璧には合わせられません。自分としては完璧に合わせたつもりでも30%は外れます。そういう場合の口の動きの変更もFinal Cut Proだったからできたわけで、フィルムだったらできませんでした。
もうひとつ重要なのは「ワンフレーム編集」ができたこと。これもフィルムでは難しいことでした。TV版では3フレームずつの動きというのが結構あって、テンポよく見せるために1秒半の動きを1秒のものにするために1フレームずつ抜いていくようなこともやりました。これは結構やりましたが、本当につらい作業だった(笑)。でも、やってみると間違いなくいい、とわかります。だったらやるしかないんです。それをやるから、旧作を使う意味があるんです。
──単純にオール新作カットとせず、敢えて旧作のカットを使用したのは、どういった理由からですか?
富野:簡単な話、「Zガンダムだったから」なんです。もちろんすべて新作にした方が楽なんですよ。しかし、オール新作のリメイク作品がオリジナルに勝った映画なんてないでしょう? それにどんなに古い画でも、それがもともとの『Zガンダム』って作品のフィーリングなんだから、それは使わなければならない。CGをふんだんに使ったオール新作カットで、派手できれいな『Zガンダム』ができたらそれでいいかという問題については、そうではないだろうと考えたのです。
旧作カットと新作カットが混じってどう見えるかということは考え抜きましたので、漫然とはやっていません。リズム感が大事になってきます。「えっ、また古くなってきた、あ、あ、あ、(新作カットが)来た!」みたいなリズム感を乗り越える映像のテンポはFinal Cut Proだからできたのです。「新作カットだな」と思わせるのは数秒で、観客の意識がまたすぐ物語展開に入っていくように仕向けないといけない。視覚におけるリズム感やスピード感、このテンポで見ていたいという観客の欲求を満たさないとダメ。これは映像を漫然と見ている演出家や編集マンには絶対にできないことです。
編集というのは僕にとってはシナリオ的な構成の最終作業なんです。そういう意味で、僕にとってこのFinal Cut Proというツールは、「必殺兵器」と呼んでもいいものでしたね。
「これはできないだろう、というような難しい部分を、Final Cut Proがものすごくいい形で補完してくれた。だから僕も真剣にやりました」(富野由悠季総監督)
──今後も作品づくりの面においてFinal Cut Proを使って編集する、という作業は欠かせなくなってくると思いますか?
松村:僕らの仕事は基本的に分業ですから、それをかなりの部分監督ひとりに任せてしまうのは危険なところもありますね(笑)。このツールのおかげで、監督自身の負担が何より大きくなります。今回は元のTVシリーズを再構成するという条件がありましたが、作品によってはあえて「使わせない」といった判断も必要になってくるかと思います。
──監督ご自身としては、かなりの部分を自分ひとりの手で完結できることについてどうお感じになっているのでしょう?
Final Cut Proを編集作業だけでなく、映像の演出を含むシナリオの最終チェック作業に用いる。
富野:すべていいことだとは思っていません。ですから、僕の場合、画として現れるもの──アニメーター、彩色、美術の分野──に関しては、(一定基準から)はみ出さない限り何にも言いません。物語構造とか画像構造については余白を作っているつもりだし、「ここで何ができるのか」という発見を、スタッフにはしてほしいと思ってます。
僕は「六十歳の手習い」でデジタル映像編集を始めたわけですけど、そのせいで自分でやらなくちゃいけなくなって焦ってます。本当は、「それじゃダメなんだよ!」なんて偉ぶってたいんだけど(笑)。でも、若い人からみて「これはできない!」というところまで自分でやってみせれば、認めてくれるでしょ。これはできないだろう、というような難しい部分を、今回のツール(Final Cut Pro)がものすごくいい形で補完してくれました。だから僕も真剣にやりました。つらかったんだけれど、それをやらなければ若い人にバカにされますからね。
取材:2005年10月
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