テロップ入れもノンリニアです。自分たちが最後まで作ったものがメディアに載るというメリットに比べたら、ほかのデメリットはなんということもない。

株式会社アイネックス:
Final Cut Studioが開く
ポストプロダクションの領域

朝日放送 ディレクター・近藤真広氏

朝日放送 ディレクター・近藤真広氏

「ここの、テロップはどわぁぁぁぁぁ!って感じでお願いしますとか、ショワッッ!とかシャキーン!とか(笑)僕らからの指示っていうと、擬音が多いですね。そういう感じで出せませんか、といったら本当にそういう感じで出してくれるんですよ。しかも、アイネックスの岡田さんはいつも僕の想像を超えてきますね。そんなやり方あったか!という」(朝日放送 ディレクター・近藤真広氏)

常に時間に追われているテレビ局のディレクターにとって、ポストプロダクションの存在意義とはなんだろうか。それは単に専門的な技術の必要な作業を請け負ってくれるというだけではなく、ディレクターが持っている感覚的なアイディアを具体的な映像として実現してくれるところも大きいのではないだろうか。だからこそ、ディレクターたちは優秀なポストプロダクションに仕事を持ち込みたがるのだ。

今回紹介する株式会社アイネックスは、朝日放送の番組を多く手がけているポストプロダクションだ。ディレクターのアイデアをうまくふくらますことができるのは、長年の経験とディレクターとの信頼関係があることはもちろん、手足となって使えるツールがあってこそでもある。

また、朝日放送では収録と同時にデジタイズが行われるが、アイネックス〜朝日放送間をネットワークで接続することで、以降の作業を完パケの手前までほぼファイルベースのみで行うことができるという、ポストプロダクションとして日本でもかなり進んだ環境を整えている。

このようなアイネックスの作業環境を実現しているのが、MacとFinal Cut Studioを中心とするアップルのソリューションだ。最先端の環境の中で、彼らはどのようにアップルのシステムを使いこなしているのだろうか。

HD環境ではMacのほうがコストで優れていた

アイネックスがFinal Cutを最初に導入したのは2004年頃のこと。試験的にCG部門から導入が始まり、ポストプロダクション室として編成された1年半ぐらい前。それ以前はAvid Adrenalineを使っていた。Final Cutへ移行したきっかけは、番組がみなHDに移行し始めたことだったという。

「AvidでもHDを編集できるようにしてみたんですが、コストに見合ったパフォーマンスが得られなくて、もっと速いAvidのシステムを入れるか、Final Cut Studioにするか考えました。結局、コスト面で優れたFinal Cut Studioに決めました」(アイネックス ポスプロ部 部長・松井伸氏)

アップルのシステムへの移行は、当人たちも想像していなかったほどスムーズだったと松井氏は語る。初期には多少の戸惑うことはあったものの、ほとんど混乱はなかったという。それどころか、使いやすさの面でFinal Cutを評価する声が多かった。ワークフローの面でも変化はなく、以前のフローでそのまま運用できることが歓迎された。

「以前は持ち込まれるデータはAvidだったんですが、アップルに代えてもワークフローが変わらなかったのがすごくすごくありがたかったです。Avidで仮編集したものから本編集していたので。Macでもやり方が少し違うだけでフローを変えずに済んだんですよ」(アイネックス ポスプロ部・岡田勉氏) 「Final Cut Studioはインターフェースがわかりやすかった。簡単に操作できて、どこに何があるかわかりやすかったから、みんなわりとすんなりと移行できたましたね」(アイネックス ポスプロ部・今西政之氏)

そして新社屋に移転した6月以降、アイネックスはほぼ編集をMacベースに集約している。現在ではMac Proを2台導入しており、それぞれにKona 3がインストールされ、ストレージはXServe RAIDがMac Proに直結されている。さらに、アシスタントがテロップ作成などを行うiMacも用意されている。大幅にイニシャルコストも削減できたという。

ノンリニアでのテロップ入れでもリニアと遜色ない

「テロップもノンリニアでやってますよ。通常のテロップはPhotoshopで作り、動きのあるものはFinal Cut StudioのMotionでやっています。Final Cut Studio標準のテロップ機能はディレクターさんが仮入れに使ったりしていますね」(岡田氏)

アイネックスは、テレビ番組制作現場では比較的珍しい、テロップ入れもノンリニアで行っているポストプロダクションだが、実はノンリニア全盛の現在でも、テロップ入れはリニアの機材にこだわるプロダクションが多い。リニアの機材ならば、キューボタンですぐにテロップが出るが、ノンリニアのシステムでは、一度映像を見てテロップを入れる箇所を指定してからでなければテロップが入らない。そうしたリアルタイムの操作性にこだわるあまり、いまだにノンリニアを忌避する声が多いのだ。しかし、そのデメリットを持ってしても、メリットのほうが大きいと彼らは断言する。

株式会社アイネックス 松井伸氏

株式会社アイネックス 松井伸氏

「たしかにリアルタイムでできないのはデメリットですが、必要なら何度でも修正を繰り返して、ディレクターさんの意図にキッチリ合わせたものをメディアに載せられるというメリットで相殺されていると思います。」(松井氏) 「そのメリットに比べたら、リニアの機材のようにキューで映像が出せないというデメリットぐらいはなんてことないと思います」(岡田氏)

作業時間の面でも実は、リニアと比べて劣るということもないという。むしろ、実際の作業が速くなった分、試行錯誤の時間が取れるようになり、凝った映像を作れるようになったと、エディターとディレクターがともに口を揃える。

「リニアでやったほうが早いという人はいますけど、実際はそれほど変わらないと思います。でも、ノンリニアだといろいろいじれるので、ディレクターさんの要求が高くなって実時間では変わらないということはありますね。仮にリニアと同じぐらいの効果しか使わないでテロップを入れるとすると、ものすごい早く終わりますよ。リニアで2時間かかるものが、ノンリニアだと1時間だとか。でも、ノンリニアになるとディレクターさんみんなこだわりますから。ここからうにょ〜っとテロップが出てきて、みたいな(笑)」(今西氏) 「ノンリニアでもリニアでもたぶん時間は変わらないと思います。やっぱりノンリニアだと、『そこやっぱりちょっと直しましょう』とか、『あーやっぱりこっちかな』とかできてしまうので。リニアだったらやってしまったらなかなか後戻りはできないんですけれどね」(近藤氏)

Final Cut Studioでテロップを入れるようになり、たとえば様々な種類のテロップが10個や20個も出てきたり、20面割り付けを行ったりということも可能になった。リニアの機材で同じことを実現しようとしたら手間もかかる上に、修正が入った場合に対応するのが難しい。Final Cut Studioならばトライアンドエラーができる。