ProRes 422と非圧縮とでは、実質的な画質の差はごくわずかです。今後、ミッドレンジやローバジェットの映画制作で有効な手段になるでしょう。

『ラストゲーム 最後の早慶戦』:
Final Cut Studioが開いた
映画制作の新しいワークフロー

コミュニケーションツールとしてのColor

今後、アップルのシステムを用いることで、どのようなことが可能になっていくのだろうか。阪本さんは、Final Cut Studio 2で新たに加わったカラーグレーディングソリューションのColorに注目する。

根岸誠氏

『ラストゲーム 最後の早慶戦』のポストプロダクション
東映ラボ・テック 根岸誠氏

「撮影現場でこういう絵を作りたいと思ったものが、そのまま撮れるわけじゃないですから、後でカラーグレーディングという作業が必要になります。その作業をポストプロダクションで行うわけですが、元々の撮影時に自分が意図していた色があるじゃないですか。それを、ラボに持って行く前に、こういう感じでやりたいんだよというのを伝えるのに、Colorが非常に有効だと思うんです。全フレームは大変な労力がかかるので、キーフレームを抜き出して、それを僕がColorで触って、処理ノードだけラボに振る。ピッタリとは行かないけれど、色の方向性は分かるので、あとはラボで詰めていくと。」(阪本氏)

Colorを一種コミュニケーションツールとして使うことで、色に関する意志を早めに伝え、撮影監督の意図をうまく反映させることができるのではないかという。この方法にはもう1つ、カラーグレーディングを専用機で行う場合、その設備があるラボにわざわざ来てもらう必要があるが、Colorを使えばその手間が省けるメリットがある。現在、新しいプロジェクトで阪本さんと東映ラボ・テックが試行錯誤しているのは、プライマリにColorを使い、セカンダリ以降を専用機で行うというフローだが、それでも「今まで10日間かかっていたものが、1週間とか5日間だとかで済むから、コストの削減になる」と根岸氏は言う。

また、撮影現場の違いによる色の差を、あらかじめFinal Cut ProやColorでやっておく事で、後のカラーグレーディングの負担をさらに軽減させることができるはずだと、根岸氏はテストを重ねている。専用機とすぐに置き換わるものではないとしても、その有用性にいま撮影・ポストプロダクションの双方が注目している。

これからもProRes 422を使った制作は増えていく

これまで、映画撮影はフィルム、もしくは非圧縮というのが常識だった。だが、徐々にProRes 422を使った制作も増えていく、そう根岸氏は見ている。

「作っている側からすると、本来は圧縮をかけたくないものですが、昔から比べると圧縮技術も大分良くなっています。すでにProRes 422で何作かやっていますが、非圧縮との差は実質的には大きくなく、その辺を理解して使えば、映画でも十分使えると思います。特に、ミッドレンジかローバジェットのものでは有効な手段だと思います。」(根岸氏)

実は、東映ラボ・テックでは2年後に完全ノンリニア化を目指して動いている最中だ。当然その中にはアップルのシステムも用意される。調布では、試験的にアップルのシステムを導入し、大泉のデジタルセンターでどのようなシステムを組むか、検討している段階だそうだ。最近ではアップルのシステムでやりたいという要望も増えているというが、まだまだ安定運用のためのノウハウが不足しているため、今後改善していきたいという。

Final Cut Studioが今後どう広まっていくか、そのカギとなるのは、アップルのシステムを使えるエディターが順調に育つかどうか——そう根岸氏は考えている。果たして順調にアップルのユーザーが増えるだろうか? 阪本氏の次の発言は、新しい世代の人々がアップルのシステムを使いこなしていくことを予感しているように読めないだろうか。

「良い才能を持っていたって、若い人はなかなかフィルムで撮らせてもらえない。だからみんなDVとかで撮っているわけですが、DVだとどうしても映像の表現力に限界がある。圧縮をかけても高品質な絵を保てるカメラがいまそんなに高くない値段で借りられるから、それで撮ってProRes 422を使ってMacで作業すれば現像もいらないから、ランニングコストが抑えられる。Final Cut Studioをひとつ買えば、中にColorが入ってるから、僕らがやっているのと同じようなこともできる。それどころか、若い人たちはデジタル時代の感性というか、新しい感性があるから、僕たち以上にいろいろなことができるはずですよ。」(阪本氏)