Final Cut Proは、ビデオで行っていた編集作業をそのままデジタルに移していて、その概念を崩していない。だから、編集の心得があったのですぐに使えるようになった。

宮本敬文:
写真家から映像作家へ―
表現の領域を広げるFinal Cut Pro

「映像と写真の表現の違いですか? 僕の中では違いはないです。映像は時間の流れがあるから、それをすごく大切にしているけど、基本的に撮る感覚は一緒です。たとえば、僕は写真を撮る時は、ものすごい数を撮ります。どうしてかというと、映像だったら1秒間に24コマ撮っているのが、スチールでは5分で5コマだったとしても、僕の頭の中では同じように時間が流れているから。コンタクトシートを見てもらえば分かると思うけれど、それが自分の中では整然としている」(宮本敬文氏)

中田英寿写真集「戦いの前の素顔」や、SMAP写真集「Snap.」などを手がけたことで知られ、第一線で活躍する写真家の宮本敬文氏は力強い口調でそう言い切る。その言葉に違わず、宮本氏の映像には彼の写真と同じ光と目線が存在している。

昔から映画が好きだったという宮本氏が映像を手がけるようになったのは、活動の拠点をニューヨークから日本に移した2002年以降のこと。何本かのコマーシャルフィルムを手がけ、そして今回、初のミュージックビデオ・Kenny「涙~世界のどこかで瞬間(いま)」を撮り下ろした。コマーシャルフィルムに比べて比較的低予算で制作しなくてはならないという条件の下、宮本氏が思い描く絵を実現できるシステムは何か―その答えは、デジタルビデオカメラRED ONEとMac、Final Cut Studioという組み合わせだった。

第一線で活躍する写真家から新進気鋭の映像作家へ。映像の世界に進出した宮本氏の創作に、MacとFinal Cut Studioは何をもたらしたのかを紹介しよう。

子どもたちのまっすぐな視線をとらえる

きっかけは、韓国系ポップアーティストKennyのプロデューサー・近藤由紀子氏が、CM制作会社のロビーにてふと宮本氏の写真集「GIFT to children of Angkor」を手に取ったことだった。カンボジアの子どもたちのまっすぐな視線、これこそKennyの「涙~世界のどこかで瞬間(いま)」のメッセージにぴったりだと感じた近藤氏は、この写真をミュージックビデオに使えないかと宮本氏に打診した。

「よくあるじゃない、動かない写真を使ったプロモーションビデオを作りたいと言われて。でもそういうのじゃなくて、やるなら撮り下ろしたいって僕は言った。ただし監督は僕で、撮影も僕で、すべてを僕が決めていいんだったら、余りうるさいことは言わずに撮りたいですと言ったら、2つ返事でOKを出してくれて」(宮本氏)

そして、これまでに宮本氏と一緒にコマーシャルフィルムを手がけてきたADKアーツの廣中克敏氏がサポートに加わった。

だが一つ検討しなくてはならないことがあった。それは撮影機材の選択だ。通常のコマーシャルフィルムに比べて予算の少ないミュージックビデオで、宮本氏が思い描く絵を映像にできる機材は何か、今回の撮影に最も適したカメラは何か。その答えがRED Digital CinemaのテープレスカメラシステムRED ONEだった。

「RED ONEを選択した一番の決め手はハイスピードで撮れる、スローモーションが出来ること。今回のビデオでは、子どもがまっすぐこっちを見るところを撮りたいというのが僕の頭の中に漠然とあって。人間誰でも、子どもにまっすぐ見られると、弱いじゃない。その力強さというのは何者にも変えられないなと。でも、『はい5秒こっち見てね』と言っても、絶対見てくれないと思う。子どもはすぐ、きょろきょろするからね。それがハイスピードにすれば、1秒を、4倍なら4秒に延ばせる」(宮本氏)

光に対する反応の良さも決め手の一つだった。宮本氏は、スチールも映像も自然光だけで撮ること、ノーライトが最上だというのを信条にして写真を撮っているが、とある機会にRED ONEで撮った絵を見たとき、このカメラならノーライトでの撮影に十分対応できると感じたと言う。

Final Cut Proはビデオ編集の概念を崩してないから使いやすい

日本ではまだ導入歴の浅いRED ONEに最適な編集システムはなにかなど、撮影準備のために廣中氏はあちこち奔走することになり、RED ONEをすでに導入しているマックレイというポストプロダクションにサポートしてもらうことができた。

「撮影した後の仕上げで、一番効率の良い方法をマックレイの人に相談しました。そしたら、RAWデータをデジタル現像するのにすごい時間がかかるので、まずは撮ったデータを簡易的にQuickTimeにして、それからFinal Cut Proでオフライン編集をしてから、OKカットだけカラーグレーディングしてデジタル現像していく方法が、一番効率が良いとアドバイスをいただいたんです」(廣中氏)

肝心要の編集を、廣中氏が担当することを買って出た。廣中氏は映像プロダクションに所属し、また以前所属していた会社でVHS-VHSの編集の経験もあったからだ。加えて宮本氏が「人間的にも信用している」ということで、緊密な編集作業ができると思ったからだと言う。廣中氏はFinal Cut Proを使ったことはなかったが、マックレイのスタッフに教えてもらい、すぐに編集をこなせるようになった。

「マックレイの人にレクチャーを受けて、in点の決め方とout点の決め方だとか、ずらしたいときはここをクリックすれば出来るよとか教えてもらって。難しい編集じゃないので、それだけ聞けば大丈夫でした。それはやっぱり、編集の心得みたいなものをある程度分かっていたからでしょうね。VHS-VHSで編集していたことが、クリックすれば出来ると言うだけのことなので。合成したいとなったら、いろいろ覚えないといけないんでしょうけど、絵をつないでいくだけだったら楽勝でした」(廣中氏)

「あれは騙せるよ、10年ぐらいやっていますって(笑)。僕は、フォトショップはある程度触われるんだけど、それは暗室でやっていたことと同じことをデジタルでやっているだけだから。同じことがFinal Cut Pro にも言えて、全く新しいことをさせようというんじゃなくて、便利にできるようになっているだけ。だから、ビデオでの編集方法を知っている廣中はすぐできたんだと思う」(宮本氏)