今回は取材を一人で行い、Final Cut Proで完パケの直前まで一人で編集してと、個人的な体験を番組にしている感じが、このシステムにはありました。

株式会社東北新社:
Final Cut Proとテープレスカメラが生み出す
ドキュメンタリーの新しい表現力

現地での荒編で、帰国後の作業が大幅短縮

Macとハードディスクを現地に持って行くことで、現地でのコーデック変換から仮編集まで行うことができるようになるが、実際それを試してみるかどうかは、ディレクターの方針によって異なった。1回目の海外ロケ時にコーデックの変換トラブルに遭遇した田中ディレクターは、2回目以降に問題の対処法やノウハウを確立し、かなりの作業を現地で行うことができたという。

「5ネタ中3ネタは映像を取り込んで、翻訳が必要なところを抜き出してテロップを付けて、というところまで現地できっちりできました」(田中あき子Jerryディレクター)

田中ディレクターは、1日8時間もの撮影映像の中から使えるテイクを抜き出しておくだけでも、日本に帰ったときの作業量が大幅に違うと言う。一方、渡邊ディレクターは現地では編集まで行わなくていいのではないかと考えた一人だ。

「僕は古くからのディレクターなので、収録マザーのテープをこするなんて考えられないから、現地で何かをやろうという発想がそもそもなかったんですよ。だから、今回のテープレスでさえ、僕は現地でコーデック変換や荒編をしようとは、少しも考えてなかった。でも、それはディレクターの方向性によるもので、他のディレクターはやりたがるかもしれません」(渡邊一久ディレクター フリーランス)

しかし、渡邊ディレクターのように、現地で荒編を行わない場合でも、AVCHDのまま映像をプレビューして、使えるクリップの選別を行った人は多かった。これだけでも帰国後の作業がかなり早くなると言う。結果、テープベースからテープレスに移行したことにより、7~10日かかっていた編集作業が、2~6日で終わるようになったというから、かなりの差だ。

ディレクター達の現地作業は荒編だけではない。収録素材を現地にて現地の翻訳者と共に確認しておく必要がある。従来はカメラモニターで映像再生させ、チェックしてきた。 今回は、Macを使って、セレクトした映像を現地の翻訳者に見てもらうことができ、作業の短縮と効率化につながった。これまでのようなテープでのワークフローだったら、マザーテープで確認することになるので、劣化の恐れがある上に、OKテイクを探すのも手間がかかってしまう。残りの翻訳作業を帰国後に行うにしても、マイナーな言語だったら翻訳者を探すのが大変な上に、作業時間も4~5日ほどかかるという。それが、Macを使って現地で翻訳確認してもらい、帰国後の翻訳作業は1日程度で済んだと言う。

Final Cut Proなら100%近くまでディレクターの意思を反映させられる

現地から戻ったディレクターたちは編集を、MacとFinal Cut Proで行う。編集作業のフローはディレクターによってやや違いがあるが、ほとんどのディレクターが、Final Cut Proでテロップ入れまで行った。その作業はどうだったのだろうか。

「Final Cut Proだと、オフラインの段階で自分の思っているイメージの100%近くまで編集できる。その状態にまでしておけば、完パケ制作の段階で本当に楽だし、100%の内容で納品できるというのは、ストレスが無い。ディレクターの意思を映像に反映するには、最適なシステムだと思う」(大海宏介ディレクター ヴィジュアルベイ所属)

作業速度以外にも、MacとFinal Cut Proでの作業ならばディレクターの意思をより忠実に反映できるということ以外にも、速度の点でメリットがある。斉藤ディレクターは次のように語る。

「グローバル・ビジョンは、ほとんど1人でMacを操作して編集して、テロップ入れまで自分でやるので、本編集に入ってからがものすごく早いです。いま僕がやっている別の番組では、編集スタジオに入ってから映像の加工やテロップ入れを行う従来の手法なので、本編集にかなり時間がかかります。この間、たまたま同じスタジオの向いの編集室で大海ディレクターが作業していたんですが、そのとき、彼は15時に入って17時には完パケが終わっていました。でも、僕の方は番組の尺が3倍だったという事情もあるのですが、10時から33時までかかって、ようやく映像加工が終わりました。 たった1人でほぼすべての編集をしてしまうのと、別の人のアイディアも取り入れながら仕上げまで持っていくのとでは、それぞれにメリット・デメリットがあると思いますが、それでも、これだけ編集時間に差があるのは大きいなあと感じました」(斎藤充崇ディレクター 東北新社コンテンツ制作事業部所属)

一方で、ディレクターの仕事の範囲が広くなってしまうという問題もある。だが、6人の中で最もベテランの渡邊ディレクターは、たしかにディレクターに求められる仕事が増えてきたのは事実としつつも、テクノロジーの進歩が映像表現の選択肢を増やしてきたことを挙げ、「撮影の上での選択肢が増えることはいいことだと思います」と述べている。

テープレスは番組制作フローをより最適化する

撮影から編集を終え、システムのメリットや将来に向かっての改善点を見つけ出した今、気になるのが、果たして彼らはこのシステムに何を見いだしたかだ。このテープレスのシステムは将来的にディレクターとプロデューサーに何をもたらすのだろうか。将来の展望と合わせて、聞いてみた。

前列左から:斎藤充崇ディレクター、大海宏介ディレクター、田中あき子Jerryディレクター、西山亮ディレクター。後方左から:山崎雄次郎ディレクター、大野裕之プロデューサー、渡邊一久ディレクター

「HDVテープのように、デジタイズしてFinal Cut Proで編集したあと、またテープに戻してリニアで編集するというのは、無駄があるように感じる。それを省けるシステムだと思います。将来的には、局にQuickTimeで納品できるようになるといいですね」(山崎雄次郎ディレクター)
「大容量のハードディスクがもっと軽量化されて、カメラがバージョンアップしたら、個人で一式(Mac、Final Cut Studio, AVCHDカメラ, 32GBのSDHCカード、ハードディスク)買いたいと思ってるんですよ。色味とか、すごく好きなんですよね。海外ロケに出たまま別の仕事の依頼まで受けられたらいいと思っているので、一式持って世界のあちこちに行けるようになると、理想に近づきますね」(田中あき子Jerryディレクター)
「今回、取材を一人でやって、編集も一人でやって、完パケの前までMacとFinal Cut Proで仕上げるのは初めてでした。。個人的な体験を番組にしているという感覚があったのは、このシステムによるところも大きいんじゃないかなと思いました」(西山亮ディレクター)

いずれのディレクターも、実際の撮影を通して、このMacBook ProとFinal Cut ProとAG-HMC155の組み合わせによる次世代テープレスシステムの可能性を実感した。その理由は、今回のシステムにはグローバル・ビジョンという番組の性質によく合致する点が2つあったからだ。1つは、被写体の人の意識から撮られていることを忘れさせるほど長回しできるカメラだったこと。もう1つは、MacとFinal Cut Proという少人数での編集が可能な環境で自分の意思を十分追求できたこと。ある意味で、取材者の個人的な体験をそのまま映像にしたかのようなリアルさがあるこの番組を陰で支えたのが、今回のシステムだったとプロデューサーの大野氏は言う。

ディレクターだけでなく、プロデューサーの大野氏も、MacとFinal Cut Proによるテープレス化を大きく評価している。「コスト面を考えるならば、Macやカメラ等のハードやSDHCカードの初期投資がかかるだけに、テープレスの方がやや高いが、作業に費やす時間を考えて、テープレスを選択したい」と大野氏は語る。

大野氏によれば、近年の番組予算の削減を背景に考えたとき、MacやFinal Cut Proで作業時間を削減できた方が、長期的に見ればコスト削減につながるのではないかという。また、作業時間の短縮化を実現できれば、ディレクターがディレクターとして、本来の演出力をより発揮できるようになるのではないか、そのためにテープレス化を今後も推進していきたいとのことだ。