屋敷豪太:
MacとLogicがもたらした
音楽制作の新たな地平
世界のダンスミュージックシーンを席捲したSoul II Soul『Back To Life』(89年)や、1300万枚を売り上げたSimply Red『Stars』(91年)などに参加し、世界的名声を確立したドラマー/プロデューサーの屋敷豪太氏。活動の拠点をイギリスから日本に移した現在でも、休むことなく数多くのプロジェクトを手がけ、話題作を作り続けている。そんな彼の制作活動で重要な役割を担っているのが、MacとLogicだ。
デモから完パケまでをLogicで制作
屋敷豪太氏が音楽制作にコンピューターを使い始めたのは、渡英した88年のこと。当時ロンドンで主流だったATARIでNotator(Logicの前身)を使い始めたのが最初だったが、Mac OS 9の登場でNotatorのMac版が安定動作するようになったのをきっかけに、Macへ移行したと言う。以降、屋敷氏は一貫してLogicを使い続けている。屋敷氏によると、Logicの魅力は、高い安定性もさることながら、触っていて楽器的な感じがするところにあると言う。
「もちろんPro ToolsもMacで動かせるけど、Logicの方が機械に向かっていると言うより、1つの楽器に向かっているような感じがするんですよ。ちょうどWindowsとMacの違いみたいなもので、僕はPro Toolsをエンジニアのツールだと思っていて。そういうツールを手足のように使いたいと思ったら、それ専門の人がいてくれた方が、自分はクリエイティブの方に回れるし、その方が楽しいかなと。だから、Pro Toolsはエンジニアのツール、Logicはミュージシャンのツールだと僕は思ってます。スリープ状態になっているのを、ポンっとキーボード押して、すぐに手足のように操作できるのがすごく好きですね」
そんな屋敷氏が、音楽制作でLogicを使う場面は多岐にわたる。デモ作りから、リミックス、さらには完パケまでをLogicだけで作ることも多々あると言う。時として大規模なレコーディングにもLogicを使っていると言う。
「ストリングスみたいなトラック数をたくさん使うものは、2chに落としたりとかしますね。そのままのトラック数だと負荷がかかりすぎるので、それならば2chに落として、ストリングス用のトラックを作ります。昔のアナログで言ったら、スレーブ・トラックのようなものですね。たくさんトラックがあるようなのもLogicでよくやったけど、ちゃんと名前を付けていても、あとであれはどのトラックだったっけとわけわかんなくなってくるから(笑)。間違ってほかのものをいじっちゃったなんてことも防げるし」
屋敷氏によるLogicの使い方はシンプルだ。いろいろなプラグインを使用しているが、基本的には付属のソフト音源を使うことが多い。音質的にも満足しているそうで、必要に応じてスタジオで生楽器に差し替えていると言う。あくまでオーソドックスかつシンプルな使い方に徹し、その場その場のクリエイティブな発想を余すことなくとらえるために、MacとLogicが活用されている。
iChatが変えたレコーディングスタイル
屋敷氏が愛用しているのはLogicだけではない。そのほかのMacならではの機能をフル活用して、音楽制作に役立てていると言う。たとえば、スタジオで録音したデータのやりとりや、現在出演中のテレビ番組『新堂本兄弟』で演奏する曲のリハーサル音源の受け取りなどにはiDiskが頻繁に利用していると言う。また、去年行われたスガシカオ『午後のパレード』のレコーディングでは、iChatが大活躍した。弦のパートをロンドンにいるストリングスセクションとアレンジャーに手がけてもらうことになったが、多忙な屋敷氏は現地に行くことができないため、iChatをフル活用して日本からコミュニケーションを取ったと言う。
「アレンジャーと僕は昔から個人的にも友達で、ロンドンから日本に戻って来る時に、“ロンドンからデータ交換みたいな事ができるといいよね”という話をしていたことがあったから、試しにメールでデモ音源のMP3を送ったら、“オーケー、オーケー、ノープロブレム”と返ってきて、1週間後に譜面とMIDIファイルとMP3ファイルが送られてきたんですよ。それを元に、iChatからここはこうした方がいいとか指示したりしました」
アレンジの打ち合わせに役立った以外にも、レコーディング当日のやりとりに、iChatならではのメリットがあったようだ。遠いロンドンとのiChatを経由した音と映像のやりとりは、同じスタジオ内での作業と差がほとんどなかったと言う。
「オリンピック・スタジオという凄く有名なところがあるんですが、そこを押さえてもらって、当日の様子を僕らは日本からiChatで“あ、オリンピック・スタジオだ”って見ていて。アレンジャーに“元気ー? そっちは朝早いんじゃないの?”とか挨拶したりしてね。ロンドンのMacのラインインには、卓(ミキサー)のオーディオアウトが入れてあるから、向こう側がトークバックを押せば話してる音が聞こえるし、離せばブースの中にいるストリングスの音が聞こえてくるんですよ。もちろん音はそんなに良くないんだけれど、雰囲気や話していることがよくわかって、気がついたら今俺はどこにいんの? という錯覚に陥りましたね(笑)。もともと音のクオリティーは信用出来るので、そこの心配はせずに出来た事なんですが、スタジオのブースでも外が見えないところではモニターで会話したりするから、それとあんまり差がなくって。録音が終わったら、AIFFファイルが送られてきて。ファイルをダウンロードして再生した瞬間、みんなで拍手(笑)。すばらしかったです」
屋敷氏は、Logicと同じようにiDiskやiChatを「ミュージシャンのためのツール」として使いこなしているのだ。
Logicは映像との同期にも優れている
八面六臂の活動を見せる屋敷氏は、数々のプロデュースワークとならんで、ソロとして8月22日にベストアルバムを発表するほか、立花ハジメのTHE CHILLにドラマーとして参加したり、藤井フミヤのアルバムとツアーに参加する予定になっているなど、相変わらず多忙な日々を過ごしている。最後に現在手がけているプロジェクトについて聞いてみた。
「今、役者の渡部篤郎くんが監督をやっている『コトバのない冬』という映画のサントラを作ってるんですが、この映画は北海道が舞台で、どんな寒いところか1回見ておいた方が、俺もサントラを作るのにいいだろうなということで行ってきたんです。PowerBook G4に、ギターと小さいコルグのキーボードを持って行って、現場で撮影を見ながら曲を書いて。他の機材も持って行ったんだけど、パッパッとやりたかったから、PowerBookに付いてるマイクでギターの演奏を録ったら、それが逆に味になったりしてね。サントラっておもしろいもので、音質が良いものも欲しいけど、ラジオっぽいものも欲しかったりして、たまたまチャチな音で録れたギターの音がすごく良くて、そのまま使っちゃおうかなということがあったりしました。北海道には1週間もいなかったんですけど、かなり曲やラフエディットができたので、これから映像を見ながら、作り直すものは作り直していくことになりますが、それにもLogicを使うことになると思いますよ。映像との同期は、Logicは前から良くできていましたしね。」
映画の完成は早くても来年とのことだが、そこまで待たずとも、Logicを使って生み出された傑作が次々と登場することだろう。






