収録終了前でも撮影フィルムの編集を始められることが、ITV局によるツール・ド・フランス2005の報道で、Macベースのノンリニア環境の使用を決める上で重要な点だった。この決断により、過去に例のない優れた内容の番組に仕上げることができた。
世界最高峰の自転車レース“ツール・ド・フランス”。とりわけ、今年のレースは極めて重大なものだった。この過酷なレースを7連覇するという前例のない偉業を、不屈のアスリート、ランス・アームストロングが達成する瞬間を見るため、世界中の熱烈なサイクリングファンが番組観戦していた。
英国のテレビ局では、ITV2局が、この3週間に及ぶレースを1時間のハイライト番組で毎日放送し、ITV1局が、土曜日と日曜日には生中継、毎週月曜日には1週間のハイライトシーンを放送した。
このように大規模な放送オペレーションの展開は、想像を絶するような作業である。放送する素材は電光石火の速さで仕上げる必要があり、このレースのように注目度の高いイベントでは、絶対に間違いは許されない。その仕事に当たるため、ロンドンを拠点とする「ドリームチーム」が結成され、そのチームが採用した「ドリームワークフロー」は、Appleのテクノロジーをベースに構築された。
制作会社VTVのプロデューサー兼ディレクター、ジェームズ・ベナー氏は、1986年からこのレースの取材を担当している。そのベナー氏が手を組んだのは、スポーツ分野で15年以上、このレースで9年間の編集経験があるフリーランスのエディター、ピーター・ウィギンズ氏である。「ドリームチーム」の他の主要メンバーは、ソーホー拠点の放送施設Molinare、そしてMolinareへの機材提供とXsanインストールの支援を行ったApple Solution Experts(アップル・ソリューション・エキスパート)のRoot6である。
マレーシア開催のツール・ド・ランカウィでFinal Cut Proをうまく使いこなしたベナー氏とウィギンズ氏は、さかのぼること2月にはすでにシステムの設計を終えていた。ウィギンズ氏は次のように語る。「そのとき我々が設計したものが、まさにここMolinareにインストールされたシステムです」。ベナー氏は次のように続ける。「Apple社のチームの専門知識がなければ、ツール・ド・フランスのプロジェクトは決して順調なスタートを切れなかったでしょう。彼らのサポートとアドバイスはとても貴重でした」。
「このシステムの見学に訪れた人々は、収録中のクリップを5秒以内にタイムラインで再生できることが、どうしても信じられないようです。実演することで、ようやく事実だと理解してもらえました」。
「当初からの重要な課題は、撮影したフィルムにすぐにアクセスできることでした。その実現のため、Gallery社のMac OS X専用ソフトウェアPictureReady!を使用しました」とベナー氏は語る。PictureReady!は、取り込み・収録用のプログラムで、ユーザは収録を停止することなく、QuickTimeファイルにアクセスし、作業することが可能になる。
ベナー氏は次のように説明する。「PictureReady!を使えば、Final Cut Proで、あたかも閉じた状態のQuickTimeファイルを扱うように作業できます。従来のデジタイズ工程を省くことができ、デジタイズの完了を待たずに素材にアクセスすることができます。我々は3台のPower Mac G5それぞれにこのアプリケーションを搭載し、すべてのマシンで同時に収録することができました」。
ツール・ド・フランスのレース期間中、ベナー氏とウィギンズ氏は、ソーホー所在のMolinareの放送施設で仕事をこなした。両者はその場所で、送信されてくる生の衛星中継映像にアクセスし、撮影されたビデオ映像を編集、毎晩ITV局に報道内容を直接送出することができた。ベナー氏は次のように付言する。「PictureReady!はQuickTimeファイルでの作業になるため、QuickTimeネイティブシステムが必須でした。そのため、Molinareは、専用アップルソリューションの構築に15万英国ポンド(約3000万円)を設備投資しました」。
Molinareの代表取締役マーク・フォリーニョ氏によると、Appleのオープンなアーキテクチャは、MolinareとVTVに、ツール・ド・フランスの日々のハイライト番組に着手するワークフローを改良するFinal Cut Proの使い方をもたらしたと言う。
これまでのMolinareのノンリニアソリューションは、常に一貫してAvidベースの環境だった。しかし、ベナー氏は「Molinareにある既存の設備では、希望のワークフローをどうしても実現できませんでした」と指摘する。そこで Molinareは、市販のシステムを技術面から徹底的に再調査した。フォリーニョ氏は次のように説明する。「Appleには、競合他社より優れた重要な利点があると結論付けました。それは、Apple製品がPictureReady!などのサードパーティーのソフトウェアと同時使用でき、施設に送信されてくるライブ映像から日々のハイライト番組を合理的なワークフローで制作できるという点です。このシステム設計はすばらしい成果を上げました。設計チーム、Molinareスタッフ、そしてAppleテクノロジーによる功績です」。
次ページ:迅速な処理を可能にするアップルワークフロー