![]() |
|
■矢口:とにかく「ここまでやれちゃうんだ」っていうのがびっくりで。今回はPowerBook G4にFinal Cut Proをインストールして編集したんですが、カットごとの切り替えに、音素材をオーバーラップさせてみたんですね。カットごとの音声を交差させたり、ちょっと曲線をいじったりしてみたんですけど、それも編集室に入ってからは変更できないって言われたから、無理矢理マニュアルを読んで探しあてたようなもので。 ── 編集室に入ってからは変更できない、というのは具体的にはどういうことでしょう? ■矢口:音声の部分ですね。ぼくは最初、Final Cut Proでは複数の音声を交差させることができないと思っていたんです。それは編集室でやってくれるだろうと思っていたら、パソコン上で作った音声のレベル調整はできるけど、それ以外はできないって言われて。だったらFinal Cut Proでどうにかやれないかな、と思って解説書を取り寄せたんです。そうしたら音声同士をうまく曲線で繋ぐことができるわけですよね。なら効果音の足りないところも全部自分で用意しちゃえってことで、家の前の道路でりんごを踏みつぶして録音したりとか色々やりました。 ── そこまで自分でされたんですか? ■矢口:映画なんてそんなもんですよ。「こうなるハズじゃなかった。誰かがなんとかしてくれると思ったのに」って後で後悔しないように、手作りでやれることはどんなことでも自分の手でやることがやっぱり必要なんですよ。今回で言えば、自分で素材を録って、それを取り込んでなんとかしようとする姿勢は手作りの部分です。でも、そこをサボると結局しわ寄せがきて、最終的には作品の出来に影響しますから。 ── そういう意味でもFinal Cut Proが役立ったわけですね。iMovieと比較してみていかがでしたか? ■矢口:絵のつなぎはもちろんですが、音のつなぎに驚きましたね。どんなに音声を足してもスムーズにつなぐことができる、そこはiMovieではできないことでしたから。ほとんど最終形に近い形まで卓上で仕上げられた点はすごいな、と。でも本当を言うと不安だったんですよ。基本操作をざっと教えてもらって、あとは作業をしながら実地で覚えていく感じだったんで。プロの編集の人がそばにいてくれれば安心だったんですけど、そういう余裕もなく手探りで作るしかなかったんです。だからこそ自分で吟味して、カットをフレーム単位できっちり決めていって、音の重ね方も、ひとコマとかふたコマとか微妙に調整しながら何度も見返してやりました。まあ短い作品だったからよかったんですけどね。 ── そもそもサイドストーリーの制作期間はどれくらいだったんですか? ■矢口:編集にかけた時間は、えーと……1週間くらいですかね。
── そこからFinal Cut Proの操作を覚えて編集したんですか? 事前にiMovieを使われていた、というのも大きいかもしれないですね。
■矢口:よかったですよ。いきなりFinal Cut Proだったら敷居が高すぎたかもしれない。上にパレットがあって、その下に絵を並べていくっていう構造は近いですし、iMovieがものすごくわかりやすいんで、そこから入ればFinal Cut Proの概念はだいたい理解できますよね。あとは絵コンテを作っておいたのも大きいですね。サイドストーリーは時間が7分強で、撮影が朝から日没までという中で60カットを撮りきらなければならなかったので、これは絵コンテなしでは撮りきれないと思って、きっちり絵コンテを作ったんです。で、「次はこの絵コンテのこことここのコマをまとめて撮っちゃいます」とかってやりながら撮っていきました。 ── ではFinal Cut Proに持ってきた段階であまり悩んだりはしなかったですか? ■矢口:そうですね。もう、どう繋がるかというのは見えていました。もちろん現場で面白いハプニングが起きたら絵コンテより面白く撮っていくわけで、そこはどんどんふくらませていったんですけど。 ── それでは最後の質問です。アップルにはFinal Cut ExpressというFinal Cutシリーズの入門編的なソフトがあります。こういうソフトウェアとMacによって、いまでは「映像編集」が十代の人たちにも手軽にできるようになっています。そういった環境の進化についてはどうお考えですか? ■矢口:全然オッケーですね。どんどん使っていいと思ってます。でも、ソフトにおぼれてしまうとまずいです。自分の撮影した素材のおもしろさをカバーする目的でいろんな効果を加えて、なんとなくテレビで流れているプロの映像に近づけることは以前より簡単にできるようになったと思うんです。でもそれはプロの仕事に「近い雰囲気」なだけだし、それは面白いクリエーターではなくて、面白い編集者でしかないわけです。編集さんになりたいんだったらいいんですが、自分で作品を作っていきたい、監督をしたいという人は、道具の面白さに引っ張られてしまうと大変かなと思います。 僕らが映画を作り始めたころは、手近には8ミリフィルムしかなくって、だからこそ、中身が面白くないとモロバレだったんですよ。洋服を何枚も重ね着してかっこよく見せるという手段がなかったんで、結局裸一貫で「どうですかオレの裸は?」っていう勝負だったんです。服を全部脱いだときに本当に面白いの? っていう部分をサボれば、それはすべてバレてしまうんです。「服がきれいだったらそれでいい」っていう風に観てくれる人もいるかもしれないですけど、最近は観客も薄々気付き始めてますよね。最初は珍しがってましたけど、もうここまで来ると、重ね着的にデジタル加工されたものって、「それは本当に面白い?」ってだんだんお客さんも分かってきてる感じがする。だからいまは本当に骨組みをしっかり作ることが求められていると思います。 前ページ:iMovieはおもちゃの積み木を重ねていくように編集できる |
|